One story of the fieldBACK NUMBER
清原和博が大切なものを取り戻す日。
12月1日、八王子に集まる人々の思い。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2019/11/07 20:00
記者会見での清原和博氏。「レジェンド・ベースボール・フェス」はワールドトライアウト直後、12月1日に開催される野球教室イベントである。
「キヨさん、どうしていますかね」
キヨさん。タケシ。
バットでしか本当の自分を語れないところも、無防備に他人から愛されるところも、その反面、社会性に乏しいところも、2人はそっくりだった。
清原氏が闇に落ち、周囲との関係を断絶していった時期、つまり逮捕される前、野々垣は清原氏のもとを離れていた。
だから手錠をかけられ、留置場で取り調べを受け、保釈後に薬物依存症と闘う清原のもとに一緒にいたわけではない。
あんなに近くにいたのに、いやむしろ近かったからこそ、どん底の清原に連絡することができずにいた。
「キヨさん、どうしていますかね。何かできることはないかと思っているんですが……」
その間、人生で初めて野球界から離れ、都内の飲食店で店長として働いていた。慣れない家業を懸命にこなす野々垣の顔には、どこか陰があった。
「タケシ、俺、頑張るから……」
そんな野々垣を見かねて、2人を引き合わせたのが、グリーンシードベースボール財団・筆頭評議員の西貴志だった。
清原と現役の頃から付き合いの深かった西は、この2人がお互いにどういう存在であるかを知っていた。
都内のある店。西と野々垣、そして清原。
「僕としては、2人は何度か会えばわだかまりが解けるだろうと思っていたんです。少しは時間がかかるだろうなと感じていたんですが、キヨさんもタケシもいったん顔を合わせたら、もう時間はいらなかったです」
再会の夜が更け、西が店を出ると、でかくて、ごつい男がふたり、月明かりの下で泣きながら抱き合っていた。
『タケシ、俺、頑張るから……』
野々垣は何も言えず、ただ泣いていたという。