マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
立野和明がドラフト上位である理由。
受けてわかった直球、変化球、精神。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byMasahiko Abe
posted2019/10/15 15:00
筆者と談笑する東海理化・立野和明。実際にキャッチャーミットで受けることで、その能力が実感できた。
「佐々木や奥川ですか……?」
誉めた次のボールだ。
よーし、もう一丁!
気負って、力んで、高く抜けたボールか……そう読んでいたら、とんでもない。構えた右打者の外角低目にピシャリ、目測140キロ後半の速球をきめてきたから驚いた。
ビシッと止めたつもりのミットが跳ね上げられる。ものすごいバックスピン。
カーブも「真タテ」だ。
中日・柳裕也のカーブだ。柳ほどの落差はなくても、横ブレなく、真タテに割れる。タテの高速スライダーみたいな「カーブ」だ。
スプリット……猛烈な腕の振りだ。ストレート以上に腕を振ってくるのは、よっぽど自信があるからだ。
「そうなんです。高校(愛知・中部大一高)時代から、スピンの効いた質のいいストレートと、沈むフォーク系。この2つがピッチングの核だって言われてきましたから」
メリハリの効いた語り口。意志を持って野球と向き合っている者の語尾の強さだ。
「佐々木(朗希)や奥川(恭伸)ですか……? 別に、意識はしてませんね」
なんともつれない言い方だったので、高校生を引き合いに出されて気を悪くしたかな……と思ったら、
「実物、見たことないんで。森下(暢仁)さんもそうなんです。ボール見たらたぶん、おおっ、負けないぞ……とか思うんでしょうけど」
おかしそうに笑って、オチをつけてくれる。
「逆に、社会人で同期の河野(竜生・JFE西日本)とか太田(龍・JR東日本)のほうが気になりますね。試合でいいピッチングしたとか聞くと、コノヤローみたいな気持ちになりますし」
隠し持ったキバがチラついた瞬間。
やさしい目鼻立ちをして、ボールを持たせたら、内面でキバをむけるヤツ。ちょっと刺激してみた。
先発が多いけどほんとは、試合後半のここ一番の場面で「立野、たのむぞ!」とか背中叩かれて、毎日投げたいほうなんじゃないの?
「そうですね……」
ちょっと考えて、こっちに向き直った。
「自分、投げるの大好きなんで、もしかしたら、そういう土壇場のしびれる場面で投げるほうが合ってるのかも。やってみたいですね」
鼻の穴がピクピクッとして、隠し持っている“キバ”が、チラッと見えたような気がした。