若いオーバーハンドなのに暴れない。

　長い手足を目一杯大きく使ってしならせて、時計の文字盤でいえば、11時ぐらいの角度からきれいに投げ下ろす。

　誰かに似ている。受けた誰かだ、誰だ……？

　きれいな真タテのオーバーハンド、パッチーン！　とリリースで弾けるパワー。そうだ、あいつだ！

　岸孝之、東北学院大学。西武で、今は楽天で、エースを張って奮投するイケメン右腕だ。

　はい！　カモーン！　タッチャーン！

　立野和明だから、タッチャン。勝手に名付けた「マウンドネーム」。

　うっし……！

　マウンド上ではっきり応えて、構えたミットの位置をしっかり確認してからモーションに入る。

「高校から入社して3年目の21歳。若い投手でオーバーハンドなら、球道があばれるもの」

　そんな想定でミットを構えていたのに、構えたミットより高いボールがない。

　はい、ここー！

　ヒザの高さにミットを構えると、ほぼその通りのピンポイントに投げ下ろしてくる。

　打者なら、ヒザよりさらに低いポイント。そんな“低め”に、ホームベースの上でグワッと加速してくるような快速球をきめてくる。

「ほんとっすか……角度がウリなんで！」

　腰を下ろして5つ目の速球が、ほんとに“真上”からのタテの角度できた。時計の文字盤でいえば、今度は12時の角度だ。

　真上から投げ下ろしているのにホップしたように見えて、オオッと……ミットのポケットを外れ、ほとんどネットで引っかけて捕ったような“はずかしい”捕球ぶり。

　すごいね、今の角度！

　ほんとっすか……角度がウリなんで！

　笑った顔はやさしいが、モーションに入った瞬間、目が変わる。この「二重人格」がピッチャーなんだ。

　スイッチが入って、人が変わる。

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