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ミランの新エース、ピオンテクは
“背番号9の呪い”を解けるのか。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byUniphoto Press
posted2019/09/20 11:40
9月15日の3節ベローナ戦でPKを決めて今季初ゴールを挙げたピオンテク。得意の「ガンマンポーズ」を見せた。
ファンバステンやウェアもつけていた。
インザーギは「自分の前には伝説の名手ファンバステンや怪物ウェアが背番号9をつけていたことを忘れてもらっちゃ困る」とも言った。
呪いの正体とは何なのか。
名門の重圧か、先人への畏怖か。それとも単に戦術への適応不足なのか。
あれは、2007年冬のサン・シーロだった。
クラブワールドカップのために日本へ旅立つ直前の試合でゴールを決めたインザーギは、試合後のざわめくミックスゾーンを慌しく駆け抜けようとした。どうしてもコメントが欲しかった僕は、ダメ元でわざとフランクに呼びかけてみた。
振り返りざま「パッシオーネ(情熱)さ!」
ピッポ、ゴールする秘訣は何ですか?
彼は立ち止まり、振り返りざま「パッシオーネ(情熱)さ!」とひと言だけ告げ、ニンマリと親指を立てて去っていった。
現役時代のインザーギは、グラウンドにいる間、過去の偉大なOBとかライバルとか、そんなものは極論どうでもいいと考えていた節がある。真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐにボールに追いつき、ゴールの中に放り込むことだけを考えた。
これだけ聞くと、インザーギは少年コミックのヒーローみたいに豪気で熱血漢のように思えるかもしれないが、本当はとても神経質で繊細な人物であることはミラン界隈では常識だ。だから、愛する古巣で呪いに苦しむ後輩ストライカーにかける言葉は慎重でやさしい。
「私はミランもFWという職業も、大事に大事に思っている。ゴールできないときの苦しみも多少はわかるつもりだ。ゴールへの直感もガッツもピオンテクは持っている。まだカンピオナートはまるまる残っているんだ。厄除けもお守りもいらない。ただ己の力を信じて、彼は彼のやり方を貫けばいい」