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厳しいセッター争いにも折れない心。
バレー代表・深津英臣「這い上がる」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byItaru Chiba
posted2019/07/25 11:40
深津英臣をはじめ、藤井直伸や関田誠大と、男子バレー代表の熾烈な正セッター争いは今後も続いていく。
新体制で主将を務めるも……。
あのトス回しは完璧だった。そう称えられれば称えられるほど、なぜあの場面であの選択をしたのか。理由ばかりを考えるようになった。
「遡って高校時代や大学時代を振り返ったら、もしかすると今以上にもっと大胆に、当たり前にできていたことがあったと思うんです。でも戦うレベルが上がって、相手が強くなればなるほど、1つ1つなぜできたのか、できないのか、と考えないと戦えない。自分では同じようにやっているつもりでも、何かが違うんです。
だから余計に『どうしてあの時はできたんだろう』と考える。悩んで悩んで、それでも答えが見えないけれど、僕はそうやっていくしかないのかな、と思うんです」
リオ五輪の出場を逃がし、東京五輪へ向けて中垣内祐一監督体制でスタートした2017年。深津は日本代表の主将を務めた。だが、レギュラーセッターを務めたのは藤井直伸。
パスが返ったところからのコンビ展開を得意とする深津に対し、パスが崩れたところからでも積極的にミドルを使い、バックアタックを絡める展開を得意とする藤井のスタイルが日本代表の目指す戦い方にはマッチしたからだ。
国内三冠に貢献、しかし代表落選。
ならば結果を出すしかない。並々ならぬ決意のもと、所属するパナソニックパンサーズでは17/18シーズンにVリーグ、天皇杯、黒鷲旗と国内三冠を獲得した。だが、2018年9月にイタリアとブルガリアで開催された世界選手権のメンバーからは外れた。
日本で結果を出したとはいえ、世界に目を向ければそれがイコールとは限らない。学生時代から多くのタイトルを獲得し、いわばエリート街道を歩んできた男が直面する、大きな壁と、屈辱。
だが一方で、その現実を素直に受け入れる自分もいた。
「スキルが違うんです。同じコートで練習していても、藤井や関田(誠大)を見ると、『こんなところからそこに上げるのか』と思わされることばかり。俺は同じ状況では無理だ、と負けを認めざるを得ないんです。
三冠で日本で一番になったんだ、と自信を持っていたつもりだったけれど、個々の能力を見たら、自分はこいつらには勝てないな、と。だから落ちても納得できたし、余計に思いました。『ここから絶対、這い上がってやるぞ』って」