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厳しいセッター争いにも折れない心。
バレー代表・深津英臣「這い上がる」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byItaru Chiba
posted2019/07/25 11:40
深津英臣をはじめ、藤井直伸や関田誠大と、男子バレー代表の熾烈な正セッター争いは今後も続いていく。
練習の成果が表れた会心の1本。
這い上がる、と誓ってから1年。
日本代表のユニフォームを着て臨んだ6月のネーションズリーグ東京大会、第3戦のイラン戦では会心の1本があった。
12-16とイランが4点をリードした第1セット、深津は関田に代わってコートへ入った。自身のサービスエースを含めた連続得点で猛追、19-21の終盤だった。
大竹壱青のサーブからイランの攻撃を切り返し、チャンスボールが日本へ。決して万全の状態ではなく、走ってアタックラインの付近で2本目をつなげた深津は、すぐ横で助走に入って来た石川のバックアタックを選択した。
それは偶然ではなく満を持したものであり、練習中に石川から「(シエナで共にプレーしたイラン代表セッターの)マルーフは離れた位置からでもバンバン上げてきたので、僕も入るから、オミさんもどんどん使って下さい」と言われ、スパイク練習やゲーム形式の練習を通して何度も試してきた結果だった。
迷わず上げ、完璧なタイミングで石川が打ち抜く。
その1本は、ルーキーの頃と同様に「うまくなりたい、試合に出たい」という一心で自分と向き合い、ひたすら練習を重ねた成果だった。
たった1点ではあるが、大きな自信につながる1点をつかみ、ようやく、ここから――。
そう思えるきっかけになるはずだった。
チャンスを生かせず、関田と交代。
だが、深津はその大きなチャンスを活かしきることができずに大会を終えた。
スタートからコートに入った第2セット。自身のサーブで相手守備を崩し、ミドルの李博、オポジットの西田有志、ほぼ全員が攻撃に参加できる絶好の状況であったにも関わらず、レフトの石川に上げたトスは短く、上がる前から石川サイドに寄っていたイランのブロックに止められる。19-21の終盤にも、同じように西田のサーブで崩したところで福澤が止められ、ブロックポイントを献上。その後、再びコートには関田が投入された。
自らのサーブで崩した西田が、帰って来たチャンスボールを高く上げ、万全の状態で助走に入っていた。もしもあそこで西田に上がっていたら、結果も変わっていたのではないか。たら、れば、を言い出せばキリがないとわかっていても、そう思わずにいられない。
誰よりその重さを噛みしめていたのが深津だった。
「ここで決めてほしい、決めさせたい、という思いもあるけれど、それだけじゃ世界とは戦えない。まず技術をつけないといけないし、何より、試合に出るチャンスがあった中で結果が出せなかったこと。負けたことが悔しいです」