猛牛のささやきBACK NUMBER
パ防御率1位・山本由伸は「万能」。
快投を支える気づきと勝利への欲求。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2019/07/12 07:00
前半戦を終わった時点でパ・リーグ防御率1位となったオリックス山本由伸。ファンからの期待も膨らむばかりだ。
“体全部でひとつ”というイメージ。
今年、オリックスの鎌田一生トレーナーが、「山本由伸150キロ台中盤の豪速球の秘密」と題して、山本が自主トレから持ち帰って行なっているトレーニングの一部をインスタグラムで公開した。例えば、ブリッジの姿勢から手足を上げたり、回転したりするものだが、それはメニューのほんの一部に過ぎないという。
その映像を見るだけで、山本の体の柔軟性やしなやかさがわかるが、「そんな単純なものじゃないんです」と山本は言う。
「柔らかさだけじゃなく強さをすごく意識しています。体の内の力というか……。力を抜いた中で力を出せるように、力じゃない力を鍛えてる。そんな感じですかね」
どの部分をどう鍛えるといったトレーニングではないため、「言葉では説明できない」と苦笑しながらも、こんな表現で話してくれた。
「自分の動作に、“足で”とか、“手で”とか、“右手をこうする”とか、そういう概念が今はないんです。“体全部でひとつ”というイメージです」
数字よりも勝利にこだわる山本。
オリックスの鎌田トレーナーはこう解説してくれた。
「よくアマチュアの子などに『どこを鍛えたら球が速くなりますか?』という質問をされるんですが、どこか1カ所を鍛えても無理なんです。全身の連動なので。もちろん基礎筋力は大事ですが、筋力があればあるほどいいというわけではありません。“筋力イコール球速”ではない、ということを由伸が証明してくれていると思います」
前半戦は防御率1位の座をキープしてきたが、「1人1人、1イニングずつ積み重ねていったものが数字になっているだけで、防御率をよくしようというイメージはないですね」と冷静だった。
「自分の調子が(防御率に)表れるので参考にしたりはしますけど、そこばっかり見てると、点を取られた時にショックだったり、勝つという目的よりもちょっと上回ってしまったら、個人プレーになっちゃう。野球はチームプレー。チームのために、が一番ですからね」
どのタイトルにもこだわりはあるが、もっともこだわるのは“勝利”だ。以前から山本はプロでの目標を「チームを勝たせられるエースになること」と語っていた。
「とにかく勝ちたい。自分が投げた試合でチームが勝つ。それが一番の仕事です」