テニスPRESSBACK NUMBER

初戦敗退、大坂なおみの深い悩み。
何十億も動く巨大ビジネスと重圧。 

text by

山口奈緒美

山口奈緒美Naomi Yamaguchi

PROFILE

photograph byHiromasa Mano

posted2019/07/02 18:00

初戦敗退、大坂なおみの深い悩み。何十億も動く巨大ビジネスと重圧。<Number Web> photograph by Hiromasa Mano

ウィンブルドンで初戦敗退となった大坂なおみ。個のスランプを抜け出て、さらにスケールの大きな選手となれるか。

「Mo Money Mo Problems」知ってる?

 テニスが巨大ビジネスになったことで、若いスター選手が背負うプレッシャーも膨れ上がったのではないだろうか。

 たとえば、大坂がずっと憧れてきたセリーナ・ウィリアムズがグランドスラム初優勝したのは17歳の全米オープンだったが、このときの優勝賞金は75万ドル。昨年の全米で大坂が獲得したのは380万ドルだ。約20年のときを経て5倍に膨張した。スポンサー契約に動く金額もケタ違いになったことは想像に難くない。

 開幕2日前の記者会見で、大坂は不意にこんなことを口にした。

「『Mo Money Mo Problems』って曲を知ってる?」

 金が増えりゃ問題も増える――22年前、つまり大坂が生まれた年に24歳の若さで亡くなったニューヨーク・ブルックリン出身のラッパー、ノトーリアスB.I.Gの名曲の1つだという。

 そのジャンルの音楽にはまったく疎いのでよく知らなかったが、突然そんな曲を引き合いに出したのは、自分は物事を考えすぎる性格だという話をしていたときだった。「成長するにつれて考えすぎないようになってきたか」と聞いた記者に、笑って問いかけたのだ。

「前以上に考えすぎる性格に」

 そしてこう話した。

「(その歌詞のように)問題が増えるってわけじゃないかもしれないけど、前以上に考えすぎる性格になったことは確か」

 大坂らしい軽妙な表現だった。伝説のラッパーのドンピシャすぎるフレーズに重ねた心のリズムは興味深い。

 この日は、男子のほうでも若いスター選手が次々と敗れた。

 第5シードの22歳アレクサンダー・ズベレフと第6シードの20歳ステファノス・チチパス。特にこの1年の成長著しいのがチチパスで、まだグランドスラム優勝こそないが、今年は全豪オープンのベスト4入りや マドリード・マスターズでの準優勝。4月には初のトップ10入りを果たした。現在は自己最高の6位に位置している。

【次ページ】 今の若い世代に足りないものとは。

BACK 1 2 3 4 NEXT
大坂なおみ
アレクサンダー・ズベレフ
ステファノス・チチパス

テニスの前後の記事

ページトップ