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Mr.ユーベが禁断のインテル就任。
勝利に執着する闘将コンテの原点。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2019/06/13 11:45
選手として13年間ユベントスでプレー、監督としても3連覇達成。「Mr.ユーベ」ことコンテは宿敵インテルの監督として成功できるか。
名将リッピでさえも味わった屈辱。
一度“老貴婦人”の選手や監督であった者が、仇敵インテルの禄を食むことは、もはや前時代的な感覚かもしれないが、やはりファンたちには複雑な感情を呼び起こす。
そのタブーに挑んだ指導者は、1920年代の選手兼監督ヴィオラを端緒として、歴史上いないことはない。
ただし、“Mr.ユベントス”として名を馳せ、インテルでもスクデットとUEFA杯を勝ち取った名将トラパットーニは例外的な成功例だろう。
ユーベで5度のスクデットとチャンピオンズリーグを制した世界的名将リッピは、1999年にネラッズーロ(黒・青)のベンチに座ったが無冠に終わっただけでなく、2シーズン目の開幕戦直後に解任される屈辱を味わった。
現役時代に両者から薫陶を受けたコンテはどちらの道を辿るのか興味深いが、イタリアのサッカーファンたちには就任のニュース自体はすんなり受け止められた。
なぜなら、コンテは6年前の会見で、自らが何者であるかを明言していたからだ。
かつて語っていた「私はプロだ」
2013年3月、2年目のユーベを率いてスクデット連覇へ邁進していたコンテは、インテル戦を控えた会見で「将来、インテルを率いる考えはあるか?」という、少々意地悪な質問を受けた。
応え方一つで今後のキャリアに影響が出る。普通なら当り障りのない、無難な応えしか返ってこない。
返答はドスの効いた声だった。
「貴方がたは勘違いしているようだから、はっきりさせておこうか。我々はプロフェッショナルの世界に生きている。プロの世界では何でも起こりうる。今の私はユーベの監督であり、いの一番にユーベ・ファンでもある。だが、もし私にインテルを指揮する日が来るとしたら、私は真っ先にインテリスタになるだろう。それがミランでもローマでもラツィオでも同じことだ。自分のチームを勝たせるためにあらゆることをするのは当たり前だろう。私はプロだ」
私をそこらへんの甘っちょろい感傷にひたる監督たちといっしょにするな、という1分余りのコメントには有無を言わさぬ迫力があった。