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Mr.ユーベが禁断のインテル就任。
勝利に執着する闘将コンテの原点。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2019/06/13 11:45
選手として13年間ユベントスでプレー、監督としても3連覇達成。「Mr.ユーベ」ことコンテは宿敵インテルの監督として成功できるか。
コンテの原点にある両親の存在。
先月初旬、コンテは去就を定める前に、伊紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューを受けた。
サッカーとの出会いを問われた彼は、故郷である南部プーリア州の片田舎に思いをはせながら、そこで自身のサッカー観や指導法の根っこに通じるつながる思い出をいくつか語っている。
「原点は親父だ。親父は地元の小さなクラブの会長だった。といっても親父は監督でもあり用具係でもあり、さらにチームバスの運転手でもあった。ハーフタイムのドリンクを用意したり、自宅に選手たちのユニフォームを持って帰って洗濯するのも親父の役割だった。本業? スクールバスの運転手だった。今の子供たちなら見向きもしないような重い革製のボールを大事に、大事に手入れしていた」
損得抜きの本物の情熱とは何か。
己を本物のプロだと自負するコンテは、選手たちにユニフォームへの絶対的忠誠を求める。基準とするのは、父親がチームに無償で捧げた献身だ。
「母親からは何発も平手打ちをくらった。彼女は腕のいいお針子で、家には見事に縫い上げられた真っ白なウェディングドレスが何着もあってね。パンとボールで育ったような私がはずみで何度ドレスを汚してしまったことか。そりゃただで済むわけがないさ」
コンテが率いるチームの選手は、いかに理由が正当でも一度練習を欠席すれば、翌日の練習で同等の追加メニューをこなさなければならない。勝利という結果と高年俸は、母親がドレスに込めたひと針ひと針のように、繊細な労力の積み重ねの対価でなければならない。
「この流れを変えてやる」
コンテは、インテルと年俸約1100万ユーロで3年契約を結んだ。リーグ一の高給取りになった分、その責任は果たす。
「もう8年もインテルはタイトル争いをしていない。だから、ここには“今こそこの流れを変えてやる”という気概がある。オーナーや会長の真剣味にも感銘したから、ここに来た」
就任発表後、間髪入れずにフロントや広報スタッフらと相次いで打ち合わせを行い、来月8日から始まる高地キャンプに向けて現地視察に出向き、練習場やホテルの環境を入念に吟味した。現場から離れて1年、彼の心も身体もウズウズしている。