球体とリズムBACK NUMBER
歓喜の「You'll Never Walk Alone」。
リバプールCL制覇にクロップも万感。
posted2019/06/02 12:30
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Getty Images
エスタディオ・メトロポリターノが別のチームの真紅に染まった。一昨季からアトレティコ・マドリーの本拠地として使用される近代的なスタジアムはこの日、ホームチームと同様に赤を基調とするリバプールの欧州制覇を祝った。
トッテナム・ホットスパーとのイングランド勢対決を制したことを告げる笛が鳴ると、守備の要のCBビルヒル・ファンダイクは号泣。優勝セレモニーでは、主将のジョーダン・ヘンダーソンがこれ以上ないほどエモーショナルにトロフィーを掲げ、その後にすべてのチームメイトが続いた。
ひとりひとりのセレブレーションを全員で喜ぶ結束したチームの中心には、もちろんユルゲン・クロップ監督がいた。
スタンドでは、試合が終わる前からクラブのアンセム『You'll Never Walk Alone』を歌い続けたファンの歓喜が弾けた。彼らの情熱がピッチ上の選手たちの背中を押し続けたことは、あらためて言うまでもない。
試合自体は熱戦だったが硬直した。
もっともゲームそのものは、熱戦ではあったかもしれないが、欧州頂上決戦にふさわしいクオリティーだったとは言い難い。あるいは、ファイナルならではの低調な内容と言うべきか。
至高のタイトルが懸かる試合では、時に両チームともに硬くなり、本来の力を出せなくなることがある。日頃から手のうちを知り尽くす同国勢対決なら、ことに慎重になったとしても不思議はない。それから現地21時のキックオフの時点で気温30度というコンディションと、どちらも3週間ぶりの公式戦だったことも考慮すべきだろう。
より硬直していたように見えたのは、137年のクラブ史で初のCL(チャンピオンズカップ時代も含む)決勝を戦ったトッテナムだ。「プレミアリーグが終わった後、CL決勝までは、フィジカルや戦術的なものよりも、メンタル面の準備に励んだ」とマウリシオ・ポチェッティーノ監督は戦前に語っているが、未知の領域で自然に振舞うことができた選手は少なかった。