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がんに襲われた大学生ラガーマン。
わずか1年で克服し、プロの道に。
posted2019/05/13 10:30
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph by
Masataka Tara
がんを克服し、憧れのトップリーガーになった。
フランカーの田中伸弥は今春、神奈川県で唯一のトップリーグチーム・三菱重工相模原ダイナボアーズの一員になった。半年間の抗がん剤治療、2度の大手術を乗り越えた。
飾らない人柄で先輩から可愛がられ、後輩からは慕われる。愛称は「シンヤ」。大阪桐蔭高校、近畿大学と進んできた23歳は、いま相模原のグラウンドで選手生活を謳歌している。
「トップリーガーが目標でした。今は何をしても楽しいというか。とにかく普通だと思っていたことが楽しくて。悲しむことも少なくなったような気がします」
年間10万人に1~3人程度の「胚細胞腫瘍」。
病名を知ったのは2017年12月だった。
近畿大の主力フランカーだった田中は、'17年度の関西大学Aリーグの全7試合に先発出場。その年の関西ベスト15に選出される働きを見せた。しかし、この時すでに身体は悲鳴を上げていた。
「病気と分かる1カ月半くらい前から、ずっと咳が出ていました。しんどいし、疲れやすいし、呼吸もしにくかったです」
12月8日、母と2人で大阪・八尾市立病院を訪れた。事前の細胞検査で白血病の可能性を指摘されていたから、覚悟はしていたつもりだった。
精密検査の結果は、胸部のがん。左右の肺に挟まれた「縦隔」と呼ばれる空間に、発生は年間10万人に1~3人程度という胚細胞腫瘍が見つかった。腫瘍は腹部にもあった。それだけではなかった。
「肺にも転移していました。腫瘍マーカー(がんの進行とともに増加する生体内の物質)は20万ありました。場所にもよりますが、普通は100でも多いんですけど。いつどこに転移するか分からないので、『すぐ治療しなあかん』となって」
田中はすでに三菱重工相模原に入団が決まっていた。しかし、命が危ぶまれる状況となり、チームは推移を見守らざるを得なくなった。