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酒井高徳、無言は「異例中の異例」。
自ら背負った昇格の責任との戦い。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2019/03/18 12:15
酒井高徳はサイドバックながら中盤的な役割をこなすなど、重要な役回りだ。名門ハンブルガーの復権に欠かせない。
取材エリアに現れない異例の事態。
ブンデスリーガの多くのスタジアムでは、ピッチからロッカールームへ向かう途中で選手が取材を受ける。そのため、取材陣は試合終了前にミックスゾーンに移動しなければならない。スタジアム最上段から、急いでピッチレベルへと走ったものの、酒井は誰の取材も受けず、すでにロッカーへ戻っていた。そしてキャプテンが再びミックスゾーンへ姿を見せることはなかった。
酒井高徳が取材を受けないのは異例中の異例で、クラブ広報も驚いた様子だった。それは現地メディアも同様だったが、驚きと同時に酒井の心情を思えば致し方ないと判断し、ミックソーンからドイツ人メディアも姿を消した。
キャプテンを辞退したとはいえ、在籍期間もブンデスリーガでの経験値も高い酒井は、「キャプテンを支える仕事をしたい」と話していた。だからこそ、ハント不在を埋めるためには、必ず勝利を達成しなければならない。その覚悟を持って、ダルムシュタット戦に挑んだことは想像にたやすい。
しかし、この日は自身のサイドで裏のスペースを突かれての失点をはじめ、果たすべき仕事ができたとは言えなかった。何よりも勝利、勝ち点を手にできなかったのは、痛恨の極みだろう。
2部のチームに残留した強い覚悟。
チームには若い選手が多い。だからこそ、酒井がチームに安定感をもたらす存在にならなくてはいけない。その務めこそが、彼が見つけた新しいモチベーションの源だったのだから。
不甲斐なさと、自身への落胆。何度も味わったはずだが、この敗戦の悔しさは以前とはまた違う味をしているに違いない。
2部への降格を受けて、オフには他クラブからのオファーもあった。それでもハンブルガーSVへの残留を決めた酒井の決断は、ある種の美談として語られた。1シーズンでの1部復帰を使命とするクラブの一員として、史上初の2部へ降格させたキャプテンとして、背負ったもの、固めた覚悟は強い。