久々に巻いたキャプテンマーク。

　この日、酒井は久しぶりにキャプテンマークをつけてピッチに登場した。長くキャプテンを務めていた時期もあるが、2部降格で「チームを変えなくちゃいけない」と辞任したのだ。しかし、新キャプテンのアーロン・ハントがサンクトパウリ戦で負傷交代したこともあり、酒井がキャプテンを務めることになった。

　右サイドバックながら、攻撃時にはボランチの位置に立ってチームをコントロールする。その役割をヴォルフ監督から与えられた酒井は、ゴールに繋がるプレーでなくとも、黒子のような仕事であっても、チームに貢献できるという新たなモチベーションを手にした。

　酒井のバランス感覚やカバーリング能力、戦術理解度や献身性が評価されたからこそ、与えられた任務である。

　サポーターの熱を力に変えたかのように、ハンブルガーSVは開始16分で2ゴール。難なく主導権を握り、余裕を感じさせた。

「2－0は危険なスコア」と表現されることもあるが、力のあるチームならそのリードを守れるだろうし、追加点を奪えば試合を決定づけられる。ましてやブンデスリーガ2部においてハンブルガーSVは、他クラブとは別格の選手をそろえている……だから、危険はないはずだった。

高いラインの裏を狙われ……。

　しかし後半開始直後から、ダルムシュタットはギアを上げた。前半とはまったく違う圧力で、ハンブルガーSVに襲いかかったのだ。この日もハンブルガーSVのパス本数は相手を大きく上回っていたが、徐々に決定的なパスが出なくなる。ペナルティエリア内でシュートが打てず、パスを選択するシーンも少なくなかった。

　結果、ボールを奪われ、高いディフェンスラインの裏を簡単に狙われる。そして52分、82分と失点を喫する。

　ハンブルガーSVの選手たちは精神的に追い込まれ、それがプレーにも表れていた。相手のプレッシャーに立ち向かえず後退する中盤と、カウンターを狙おうと前に出る前線。バランスを取る酒井にも迷いが感じられた。

　なんとか2－2のままで終わらせようとしたものの、チームのエネルギーは心身とも尽きていた。降り続く雨に足をとられ、動きが鈍る。そしてアディショナルタイムに入った92分、ダルムシュタットの逆転弾が決まり、試合終了の笛が鳴った。

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