プロ野球亭日乗BACK NUMBER
日本シリーズを制したホークスは、
完璧なる世代交代までやってのけた!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/11/04 12:30
圧倒的敵地・マツダスタジアムで優勝を決めた福岡ソフトバンクホークス。チーム関係者全員による記念写真。
昨年の日本一は内川のおかげだった。
昨年のシリーズの打の記憶といえば、あの一発に尽きる。
3連勝後に2連敗して迎えた第6戦。DeNAの勢いの前に9回2死まで1点差で負けていたが、土壇場で飛び出したのが、内川聖一内野手の起死回生の同点弾だった。
「本当の技術がないと打てないホームラン」
延長戦の末に敗れたDeNAの4番・筒香嘉智外野手が敬意を表した内川のこの一撃があったから、昨年の日本一はあったと言っても過言ではない。
だが、その立役者もたった1年で“世代交代”の波に飲まれる存在となっていた。
今季は5月9日の西武戦でプロ野球51人目の通算2000本安打を達成したが、その後はケガや不振で二軍落ちも経験。クライマックスシリーズを控えた最後の最後に一軍に上がってきた。
ベテランの経験を期待された日本シリーズ。5試合に先発で起用されたが、17打数2安打の打率1割1分8厘に終わった。
あの内川でもバントをする……。
それでも自分の仕事はきっちりこなす。
第5戦の4回無死一、二塁で送りバントを決めると、第6戦の4回無死一、二塁でも工藤監督から出されたサインは再び「送りバント」だった。
「試合展開からそうくるなと思っていた」
そう振り返った内川がこれを絶妙に一塁前に転がして、続く西田哲朗内野手のスクイズで先取点を奪った。
ここ10年の右打者では、間違いなく3本の指に入る技術を持つヒットメーカーである。「送りバント」のサインが出たのはソフトバンクに移籍してきて初めてだった。さらに振り返ると、横浜時代の2010年8月27日の中日戦以来の犠牲バントだった。
それでも内川は絶妙にボールを転がし、役割を果たした。
あの内川でもバントをする。
ソフトバンクの強烈な“世代交代”を象徴する場面に思えた。そしてその波に飲み込まれたのは、内川だけでなかった。
チームの精神的支柱と言われている松田宣浩内野手の出番は、このシリーズでは極端に減っていた。