“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
新潟・早川史哉、ついにピッチに!
白血病からの復活と心の葛藤を告白。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/07/25 07:00
ユースの選手たちと練習で汗を流す早川史哉。プレーのキレは十分回復しているように見える。
「限界を超える」覚悟と恐怖。
復帰に際して焦りが禁物なのは彼自身が一番良く分かっている。だが、どんどん身体が回復してくると、そのもっと先を望む焦りもまた、同時に生まれてくる。
「情熱という火は燃やし続けているんだけど、身体の限界を超えて燃え尽きさせてはいけない。そこのギリギリのラインを毎日摸索しています。でも、どこかで肉体の限界を超えないといけないし……そこが凄く悩むところなんです」
プロの選手がトレーニング時によく口にする「限界を超えろ」という言葉。健康体であれば自分自身に発破をかける意味でも効果的な言葉となり得るが、その「限界」が、こと生死にかかわるレベルになってくると話が違ってくる。
いま体力的にできないことを、ただ単に「自分の心の弱さ」と受け止めてしまうのか。それとも「回復途中の身体が限界を超えた時の悲鳴」と取るとでは、大きく違ってくる。
一度でもその判断を間違えると……彼の場合は命の危険に直結してしまう。
ここからさらに厳しい山登りになる。
「今まで目標は遥か遠くにあった。山登りに例えると、最初は山頂を漠然と見ながら登山をスタートさせて、まずはできることをやろうと、ゆっくりと前進できた。
でも、3~4合目まで登ってきて、『頂上に近づいてきたかな?』と思ってパッと山頂を見たら、山頂までのよりリアルな距離を突きつけられるという。
それにこれから先どんどん進んでいけば、当然、山の傾斜が厳しくなるし、酸素濃度も薄くなっていく――身体的にキツくなっていくのがハッキリと分かっているんです。だから、本当の勝負はここからだと思っています」
早川史哉はより困難な道を、自らの身体に問い掛けながら着実に前進し続ける。まだ、現時点では本当に山頂にまでたどり着けるかどうかは、分からない。
しかし今この一瞬一瞬を無駄にしないためにも、彼はその歩みを止めることはない――。