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男子100m、日本選手権での充実ぶり。
「できない」という固定観念の打破。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2018/07/01 11:00
抜群のスタートダッシュで5年ぶりの優勝を果たした山縣亮太。桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥らに競り勝った。
上位10名の平均記録は10秒104。
日本選手権の直前に、日本陸上競技連盟がオフィシャルサイトに掲載した記録が興味深い。2017年の男子100mで世界50位以内の人数は、陸上大国のアメリカ(31名)、ジャマイカ(8名)に次ぐ3位(6名)。
また、日本選手上位10名の平均記録は10秒104。2016年までの歴代最高だった同年の10秒181を大きく上回っている。これらの数字もまた、日本選手権でのレースから感じられたのと同様に、レベルの向上と選手層の厚さを証明するものだ。「短距離では勝負できない」と言われていた時代が長く続いたことからすると、成績、記録の両面で、隔世の感がある。
では、何が近年の充実をもたらしているのか。それは「固定観念」が破られたことにあるのではないか。
高野進氏と小平奈緒が話していたこと。
昨年、1992年のバルセロナ五輪400mで短距離種目では日本選手60年ぶりとなるファイナリストとなった高野進氏が、こう語っていたのを思い出す。
「固定観念って、大きいと思うんですよ。『できる』って頭の中で思えていないと、できない」
高野氏は選手時代、孤軍奮闘ともいえるくらい、ただ1人、突出した活躍を見せていた。当時を振り返る中で、自分で自分に縛りをかけるのがいかに危険か、そして分かってはいても選手は「常識」にとらわれやすいものだ、という趣旨のことを語った。
「勝負できない」という言葉が浸透すれば、そこに無意識にからめとられてしまい、ブレーキとなる。
競技は違うが、スピードスケートの小平奈緒も「年齢とかキャリアの長さをあらかじめ意識はしないです」と話していた。競技人生はこれくらい、と決めることで、限界を自分で作らないようにする。そんな意図を感じたが、この言葉は小平が固定観念と無縁であることを示している。