“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
結婚式8日後に無所属からの正GK。
J2山口・藤嶋栄介、激動の5カ月間。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/06/11 12:50
藤嶋栄介は第18節まで全試合フル出場中。GKとしてプレーできる日々に喜びを感じている。
故郷・ロアッソ熊本が差し伸べた手。
自分の甘さの根本に気付いた無所属GKに、ある話が届いた。それは彼にとって“捨てる神あれば、拾う神あり”だった。契約満了を受けて、故郷・熊本に戻ると、ロアッソ熊本でGKコーチを務める澤村公康から連絡が入った。
「澤村さんから『チームが決まるまで俺と個別に練習するか?』と言われたんです。澤村さんは俺の兄とチームメイトで、俺がGKを始めると言うことになった時、熊本の澤村さんのGKスクールに参加をさせてもらってからずっとお世話になっている人。嬉しかったし、すぐにお願いをしました」
澤村が所属する熊本の練習場で2人きりのトレーニングが始まった。その際、藤嶋の下には山口から「1月下旬からの熊本キャンプに参加をして欲しい」という声が掛かっていた。
「澤村さんにもそれを話したら、『よりコンディションを上げるためにやらないとね』とより密度の濃いトレーニングをしてくれたんです」
心の支えになったのが熊本の人たちだった。
そんな藤嶋に思いもよらぬ出来事が起きた。澤村とのトレーニングの3日目、いきなり熊本の全体練習に参加することになったのだ。
「澤村さん、渋谷洋樹監督、織田秀和GM、そして皆さんが『山口のキャンプ参加までウチで練習をして良いよ』と言って下さりました。今季のJ2開幕戦が山口と決まっていたのですが、もしかすると対戦相手になるかもしれないのに、そういうのも関係なく、『栄介が全力でやるなら受け入れるよ』と言ってくれた。熊本のGK陣に混じって、紅白戦まで出させてもらって……。普通じゃ考えられない環境で自主トレをさせてもらった。もう感謝しかありません」
実はこの直後、山口のキャンプ参加の話は1回白紙になったという。「突然、『キャンプ参加はなくなった』と言われて、途方に暮れました」と、ショッキングな出来事だったが、それでもその報告を藤嶋から受けた熊本サイドは、「栄介のチームが決まるまではトレーニング参加しても構わないよ」と言ってくれた。
「なぜレノファの話がなくなったのかも分からなかったし、じゃあ他に手を挙げてくれるクラブもない。正直心が折れかけたけど、そこで心の支えになったのが熊本の人たちだった。『みんなが俺のためにここまでしてくれているのに、俺が諦めてどうする』と思って、『もうない』という結論が出るまでは諦めないで全力で練習をしようと、澤村さんの指導を必死に受けました」
日を重ねていくごとに見えなくなっていく将来。だが、自分の甘さの芯を知った男は、『なりふり構わず』取り組むことに何の躊躇もなかった。