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結婚式8日後に無所属からの正GK。
J2山口・藤嶋栄介、激動の5カ月間。
posted2018/06/11 12:50
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
「正直、明日が見えないというか、不安定というか……。日々、こみ上げてくるのは自分への疑問と怒りだった」
レノファ山口に所属するGK藤嶋栄介はこう口を開いた。この言葉が指すのは今のことではない。彼は今、開幕から正GKの座をがっちりと掴み、第18節時点ですべての試合でスタメンフル出場、そしてチームも首位・アビスパ福岡に勝ち点で並ぶ2位と、優勝争いを演じている。
「天と地というか、死に物狂いでサッカーに打ち込めばこう結果が出てくることが分かったし、逆に言えば、今までの自分はプロフェッショナルに『なっているつもり』だったことに気付きました」
その言葉の源にあるのは、つい5カ月前の状況だった。今年1月、彼はチームがどこも決まっていない「無所属状態」だったのだ。
エリート街道から一転、第3GKのまま。
藤嶋は熊本県熊本市生まれで、中学時代から180cmを越える恵まれた体格を持ち、GKとして活躍。高校時代は地元の名門・大津高校に進学するころには185cmと大型GKとして注目を集め、U-16日本代表にも選出された。学内のスポーツテストでは歴代最高の数字を叩き出し、その記録は今も破られていない。
ずば抜けた身体能力を誇り、大津では谷口彰悟と1学年下の車屋紳太郎(ともに川崎フロンターレ)、澤田崇(V・ファーレン長崎)らとプレーした後、福岡大学に進学。4年時にはキャプテンになり、インカレ準優勝、ユニバーシアード日本代表としても活躍。2014年にサガン鳥栖に入団をした。
エリート街道を歩んで来た彼だったが、プロに入ってからはほとんど試合に絡めなかった。鳥栖の2年間でリーグ戦出場はわずか1試合。セカンドGKにも入れない状況だった。
2016年、ジェフユナイテッド千葉にレンタル移籍しても、リーグ、カップ戦を通じて出場はゼロで、3番手以降の立場。昨年、松本山雅に再びレンタル移籍も、出場は天皇杯の1試合のみで、ここでも3番手以降の立場だった。
「自分では頑張っているつもりなのに評価されない。そう思っていました。でも、その考え自体が物凄く甘かった」
環境を変えても一向に変化しない自分の立場。だからこそ、2017年シーズンが終わった段階で、「これは来年は厳しい状況になるのではないか……」と徐々に自分にこれから降り掛かろうとする事の重大さに気付き始めた。