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結婚式8日後に無所属からの正GK。
J2山口・藤嶋栄介、激動の5カ月間。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/06/11 12:50
藤嶋栄介は第18節まで全試合フル出場中。GKとしてプレーできる日々に喜びを感じている。
結婚式から5日後、完全な無所属状態に。
その中でも彼は笑顔を絶やさず、新郎の挨拶ではハキハキと感謝の気持ちを詰めたスピーチを行うなど、素晴らしい態度で結婚式の主役を果たした。
「最後のお見送りの挨拶の際に、松本の関係者の方に『頑張れ、栄介ならまだ出来るから』という言葉をもらいました。物凄く温かい一言だったけど、それ以上に再び自分への悔しさと歯がゆさがこみ上げてきました。今から大黒柱としてやって行かないといけない中で、『なぜこういう状況に自分がしてしまったのだろう』と……」
結婚式から8日後の1月14日に、鳥栖は藤嶋と来季の契約更新をしないことを発表し、藤嶋は完全な無所属状態になった。
「覚悟はしていたけど、実際にそうなるともっと不安や焦りが増しました。よりチーム探しに必死になったのですが、実際にJ2やJ3のクラブから興味を持たれても、ギリギリまで迷われた結果、別のGKが選ばれる……。その話を受けて『なぜ自分ではなく、別のGKを選んだのですか?』と聞くと、ほとんどが『実戦経験がないから』とはっきりと言われました。
ショックだったけど、プロである以上、結果がすべて。最終的にモノを言うのは過程ではなく、結果だと思い、そこでこの4年間で結果を出せていない『自分が悪い』とはっきりと思うことが出来た。そこで何か吹っ切れたんです。『決まらなかったらどうしよう』から、『決まったときに全身全霊でプレー出来るように、今から一切妥協をせずに準備をしよう』とポジティブになれたんです」
ポジションを奪おうと思っていたか?
なりふり構わず。エリート街道を歩んで来た彼にとって、一番欠けていたのはここだった。“経験を積めばいずれレギュラーでプレー出来るだろう”という甘い気持ちが、無意識のウチに彼に芽生えてしまっていた。
「毎年、『今年こそ』と思っていたのに、巡ってくる数少ないチャンスをまったく生かせなかった。そこは実力の問題と、自分の取り組む姿勢の問題だと思いました。鳥栖にいるときは林彰洋(現・FC東京)という絶対的な存在があって、彼は日本代表で経歴も凄くて、どこかで『アキ君には勝てない』と思っていた。
『アキ君に学ぼう』という思いはあったけど、『アキ君からポジションを奪おう』という気持ちに本気でなっていなかった。松本でも千葉でも、同じように出ているGKから学んで成長しようとする気持ちを持っていたし、『出たらやってやる』という気持ちはあったけど、がむしゃらに何が何でもポジションを奪ってやろうという気持ちが足りなかった。こういう状況になってからですが、ようやく気付くことが出来ました」