“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J注目の逸材、前橋育英のFW榎本樹。
“選手権優勝弾男”の評価をぶち破れ!
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/03/19 17:30
劇的な決勝ゴールを決めて伝説となった榎本樹。しかし、それは彼のサッカー人生の始まりに過ぎない……。
「なんだかんだ言ってうまくいった1年」
もともと榎本は多くを話す人間ではないし、どちらかというと目立つ存在ではなかった。
昨年の春先はAチームとBチームを行き来する程度の存在だった。しかし、インターハイ直前に3年生CBが負傷したことで、彼が滑り込む形でメンバー入りを果たした。与えられた背番号「4」は、その先輩の代役の証でもあった。だが、ふたを開けてみれば1回戦からスタメン起用され、FWとしてゴールまで重ね、ベスト4進出の立役者となった。
この時点で彼の名前はJクラブのスカウトにも深く刻まれるようになった。そして、選手権でのド派手な活躍……僅か半年で彼の立場は劇的に変わった。
「なんだかんだ言ってうまくいった1年。インターハイで全国デビューできて、選手権で結果を残せてラッキーだった面もある。だからこそ、今年は去年がある分、より厳しい環境下でのプレーになると思います。
そこで自分の力が問われるので、重要な1年になると。個人的には注目される分には嬉しいので、そこを力に変えたい」
「周りをもっと活かすプレー」が鍵に。
3月15日から18日の4日間、九州は福岡県で開催されたサニックス杯国際ユースサッカー大会で、彼はチームに復帰していた。
FWとして最前線で圧倒的な高さとフィジカルの強さを駆使してボールを収めると、質の高いポストプレーと推進力を随所に見せた。しかし、結果はノーゴール。エースとしての本分を果たしたとは到底言えなかった。
「まだまだ全然ダメ。彼は器用でいろんなことができるし、ポテンシャルがあるのは間違いない。でも、何でも自分でやろうとしすぎて自滅をしてしまっている。周りをもっと活かして、ボールをはたいて受け直して、よりパワーを持ってゴール前に入っていくなど、独りよがりなプレーから脱却していけば、必ず将来は質の高い選手になると思う。
そのためにも今が重要なんです。ずっと彼に求め続けていることだし、彼自身も徐々に気付きつつあるからこそ、勘違いさせないようにこれからも厳しく接していきたい」
これまで数多くのJリーガーを輩出してきた名将・山田耕介監督は、彼を甘やかす気は一切ない。それは誰よりも彼の可能性を見出しているからだった。