“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J注目の逸材、前橋育英のFW榎本樹。
“選手権優勝弾男”の評価をぶち破れ!
posted2018/03/19 17:30
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
「人生で一番嬉しい瞬間だった」
強烈なインパクトを与える一撃で、彼は一躍有名人となった。
今年1月8日の第96回全国高校サッカー選手権大会。群馬の名門・前橋育英の選手権初制覇を決めたのは、2年生ストライカーの一撃だった。
186cmの高さと足下の上手さを誇るFW榎本樹は、2年生エースとして初戦からスタメンを張ると、しなやかな身のこなしとポストプレー、ゴール前の飛び出しでチームの快進撃に貢献。そして、一番のハイライトは決勝戦のアディショナルタイムに生まれた。
90+2分、MF田部井涼(法政大)がゴール前にロビングを入れると、榎本樹が反応してバックヘッドでゴール前に落とした。味方のシュートからDFにブロックされたボールが榎本の下に転がる――そこで、榎本は右足を振り抜き、強烈なシュートをゴールに突き刺したのだ。
埼玉スタジアムがこの日一番の歓声に包まれる中、榎本はバックスタンドに陣取る前橋育英応援席に向かって全力ダッシュ。たちまち彼の下に歓喜の輪ができた。
知らない人から「良いシュートだったね」と。
試合後のヒーローインタビューで、涙で言葉を詰まらせながら初優勝の喜びをかみしめていた榎本は、一瞬にして地元の「時の人」となった。
しかし、彼はまだ2年生だ。卒業生が出て新入生が入ってきて新チームが始動すれば、選手権は過去のこととなり、最高学年のエースとしてそのチームを引っ張っていく立場となる。「選手権優勝チーム」という大きな看板を背負いながら、「これからのチーム」に全神経を向けなければいけないのだ。
しかし、彼の周囲はそれを許してはくれない――。
「選手権後に前橋駅や高崎駅とかに行くと、知らない人から『良いシュートだったね』とか、『凄かったね』と声をかけられます。その時に『凄くインパクトがあったんだ』と実感すると共に、正直『いつまでも言われたくない』という気持ちもあります。もちろん言われること自体は嬉しいことだし、言われても仕方ないことだと思っています。でも、切り替えたい気持ちもあるので、できるだけ言われたくはありませんが……」