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バスケ男子代表のHCが語る仕事論。
選ぶ人か、鍛える人か、勝負師か。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byNaoya Sanuki
posted2018/02/21 16:30
「ジャパンスタイルのバスケを構築する」とラマスHCは常々話す。日本のバスケでアジア地区1次予選を突破できるか。
「オールスター気分は昨日までだ!!」
ラマスHCが就任したのは昨年7月のこと。代表は活動期間が限られる中で、強化のために崇高な理想を掲げて行動しているのは確かにわかる。しかし、目の前の試合に勝つという課題がおざなりになっているのではないか。熊本合宿の際にそんなことをラマスに問うと、少しムッとしてこう答えた。
「次の試合、チャイニーズタイペイに勝つために全力で頑張りますよ」
そして、そのあとにこう続けた。
「そういう意見もあるかもしれませんが、今はチャイニーズタイペイに勝つことに集中しています。ただ、その一方で個人としてもチームとしても成長していかないといけない。フィジカル面でも戦術面でも、1人ひとりがレベルを上げないといけないのです!」
熊本合宿初日でこんなシーンがあった。
15歳の田中が華麗なレッグスルーから、エース比江島慎のマークを外してシュートを放った。このシーンを見て他の選手たちは沸き立った。
すると、アシスタントコーチ(AC)のエルマン・マンドーレが練習を一時中断した。それまでエルマンは英語を使って指示を送り、それをサポートコーチの伊藤拓摩が日本語に訳していた。しかし、このときはスペイン語を操る通訳の石橋潤氏を呼んで、声をはりあげた。
「練習のなかでチカラがああいうプレーをしても、そんな風に盛り上がることはないぞ! オールスターゲームの気分を味わって良いのは昨日までだ!!」
選手たちは、田中をほめる意味でも、比江島を“いじる”意味でも、そしてチームを盛り上げる意味でも、そうしたリアクションをとった。それだけにエルマンの言葉で、体育館には緊張が走った。
練習後、田中が本気で悔しがった。
このシーンにラマスの意図が凝縮されている。
田中ら若手をA代表に呼んだ理由は2つある。まず同年代では飛び抜けた存在である彼らに、現状で満足しないように意識づけること。そしてA代表で感じたものを所属チームに持ち帰ることで、所属チームに刺激を与えられることだ。これらは代表の中長期的な強化につながるはずだ。
練習後、田中が本気で悔しがって、こう話していたのが印象的だった。
「もう少しチームに貢献したかったんですけど、僕の実力では“まだできないな”と感じて、とても悔しい練習になりました。バスケのコートに立ったら、歳とかは関係ない。自分は先輩達と同級生のような感じでプレーしないといけない。そうならなければ代表で活躍できないですから」