マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
佐藤世那、3年目のフォーム改造。
過去2年を捨てるたった1人の覚悟。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2018/02/14 10:30
甲子園での活躍と、ドラフト6位。佐藤世那が化けることを楽しみにしているファンは数多くいるはずだ。
キャッチャーがミットの芯を外すボール。
立ち投げから3球、4球。
悪くない。
投げにくそうにしていない。教わったことをなぞって投げているような“こわごわ感”がない。もともとそうして投げていたような、自然な腕の振りに見える。むしろ、今のサイドのほうが、彼の腕の長さを生かせている。
あの腕の長さでサイドから来られては、打者はそれだけで嫌なものだ。右打者はボールが体のほうに来そうで踏み込めないし、左打者なら、左腕の“クロスファイアー”のような角度で食い込まれるし、逆に外はすごく遠くに見える。
さっきまで投げていた増井浩俊や佐藤達也のように、スピードがすごいわけじゃない。
しかし、10年、20年プロの剛球を受け続けてきたブルペンキャッチャーが、ミットの芯を外している。高めの速球をネットに引っかけて捕っているのだから、間違いなく“難しいボール”のはずだ。
「そうなんですよ。自分としても、割りといい感じなんで、このスタイルでやれるかなって」
甲子園準優勝の肩書きは、意味を持たなかった。
悪くないよね、ピッチング終わりにそう振ったら、やっぱり明るく返ってきた。
今のほうが世那くんの腕の長さも生かせてる気がすると、そんな率直な感想も伝えたら、
「それ言ってもらえるとうれしいですね。上から横にしたっていう感覚はなくて、むしろ、元に戻したっていう感じなんで、僕としては。高校の時も、上っていうよりスリークォーターでしたからね」
夏の甲子園の準優勝投手という“肩書き”は、プロではほとんど意味を持たなかった。
ドラフト6位でプロ入りして2年間、スピードを求めていったんはオーバーハンドに腕の角度を変えてみたものの、期待したほどの効果は得られなかったという。
「プロって、速いピッチャーならいくらでもいるんですよ。その中で特徴を出さなきゃいけないってなったら、僕の場合は今のほうが合ってるように思うんです」