マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
佐藤世那、3年目のフォーム改造。
過去2年を捨てるたった1人の覚悟。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2018/02/14 10:30
甲子園での活躍と、ドラフト6位。佐藤世那が化けることを楽しみにしているファンは数多くいるはずだ。
友人からは「大丈夫なの?」と心配され。
たしかに上から投げていた投手が横とか下に転向って聞くと、どこか「落ち武者」のような否定的印象があることは事実だ。
「なんか友だちとかも、サイドにしたって聞いて、大丈夫なの? とか、ずいぶん心配してくれて」
そうじゃないんだよ、みたいな顔で笑っている。
「確かに、フォームの“入り”はちょっと前傾してるんでサイドっぽいんですけど、テークバックからは上体起こして投げてるんで、自分としてはスリークォーターに戻ったってだけなんですけどね」
両サイドに構える捕手のミットに、ほぼきっちり投げ分けられていたのも、今のスタイルに違和感を覚えていない証拠だろう。
「右バッターの内角高目と外角低目。その対角線を突けるのが自分の持ち味なんで、今はそこに“ライン”が引けてますし、今日はスライダーにもいいラインが出てました」
「15日までいてくれたら……」
高校時代から、雄弁な球児だった。
問わず語りで、いつもありのままに、こちらが訊きたいことを察しながら語ってくれる。それが「佐藤世那」だから、今日の語りはそのままその通りに受け取っておけばよい。
そう思った。
「こっちには、いつまでいるんですか?」
次の練習グラウンドまで一緒に歩いてきて別れ際、彼が急に訊いてきた。
その夜の便で帰京することを伝えると「ああ、そうなんですか……」と、今日初めて、言葉の調子が弱くなった。
どうした?
「いえ、15日までいてくれたら……」
なによ……?
「15日、確か15日だと思ったんですけど、紅白戦で投げるんで、そこでまた見てもらえればうれしいんですけど……」
語尾がモヤモヤっとなって、2月の冷気に消えていった。