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個人勝負の攻撃なら武藤嘉紀だ!
マインツでの孤軍奮闘を代表でも。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byGetty Images
posted2017/11/23 09:00
今季ブンデスではすでに3得点。現時点での武藤のゴール数は大迫、浅野ら他のブンデス日本人勢よりも多い。
「全然苦しくないんだよね。悔しさはあるけど」
武藤は、この日あった時と変わらぬ笑顔を浮かべて答えた。
「全然苦しくないんだよね。もちろん代表でプレーしたいし、悔しさはあるんだけど。でもケガでプレーできないことの方が、比べ物にならないほど苦しかった。今はサッカーができていることに本当に感謝している。いい状態で戦えているし、チームのサッカーは決して良くはないけど、自分は今、試合が楽しい」
ベルギー戦を終えてすぐだからこそ、武藤に話が聞きたくなった理由があった。
日本はハリルホジッチ監督の生命線とも言える、速攻がほとんど決まらずにいた。ボールを奪う位置も低く、そこから単発のカウンターを繰り広げることが多かった。また選手の距離感も広く、素早い連係で攻めきる場面も少なく、個々が相手DFの圧力を感じてか自滅するようなミスを連発していた。
ハリルジャパンの攻撃は個人頼みのカウンターと表してもおかしくはない。しかしアタッカー陣は、守備でこそ良さを見せながら、攻撃ではクオリティを発揮しきれなかった。また途中から投入された選手は攻撃への意識を強める一方、守備面の強度が弱く映った。
要するに、攻守の能力バランスが悪かったのである。極論すれば、ハリルスタイルで輝ける選手とは守備でハードワークできて、攻撃では個人能力で力強く打開できる存在。攻守ともに高いレベルの才能が備わっている者が、理想なのだ。
「ゴール前で慌てることがある。もっと落ち着け」
そんなことを考えながら取材する中で、自ずと武藤のことが頭に浮かんだ。ハリルホジッチ監督が求める理想を、彼はかなりのレベルで満たしているからだ。だからこそ、選外の理由がわからなかった。
再び、少々意地悪な質問を武藤に投げかけてみた。「正直、ハリルホジッチに何か嫌われるようなことでもした? または嫌われていると感じることはある?」と。
笑いながら、本人はこう返してきた。
「あるよ、というのは嘘(笑)。そんなことは全然ない。ハリルホジッチ監督は誰に対しても厳しく指導することに変わりはない。その中で、俺は何度も『ゴール前で慌てることがある。もっともっと落ち着け』と言われてきた。要は、力が入っているって。でもそれも最近は少なくなってきた。それは、俺自身も直すべきところだと感じてきたから」