話が終わったらボールを蹴ろうBACK NUMBER
“ケンカ番長”井手口陽介の成長記。
遠藤のパス、今野の動きを盗んで。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/09/13 11:30
鮮やかなミドルシュートに大胆不敵な表情。井手口陽介はここ近年の日本代表にいなかったタイプである。
プロの壁を超えるきっかけになった天皇杯決勝。
それと同時に、井手口はプロの高い壁にぶち当たってもいた。
ガンバでポジション争いを繰り広げるボランチの相手は遠藤、今野という日本代表クラス。ガムシャラにプレーするだけでは試合出場がかなうはずもない。2014年はリーグ戦出場なし、2015年はリーグ戦わずか8試合の出場に終わった。
それでも2015年シーズン、手応えを掴む試合がひとつだけあった。
2016年元日の天皇杯決勝、米倉恒貴の負傷交代により前半12分から出番が回ってきた時のことだ。ガンバが1点リードした中で、浦和の猛攻撃に対して井手口は中盤で見事なまでにボール回収を遂行し、チームを優勝に導いた。
「走って、守備してただけでしたけど、相手の攻撃を封じたのは自信になりました」
井手口は、そう言って優勝の喜びをかみしめた。
その井手口のプレーを高く評価したのは、今野である。この試合ではサイドバックのポジションから井手口の動きを見ていたが、「貴史(宇佐美)とともに陽介が将来のガンバの中心選手になるのは間違いない」と能力を高く評価し、将来性に太鼓判を押していたのだ。
リオでも「一番若いけど頼りにされている選手」
その勢いに乗って、井手口はリオ五輪日本代表にもこの世代最年少の19歳ながら選出された。
井手口が出場しなかった初戦ナイジェリア戦はチーム全体が球際や攻守の切り替えの脆さが出たが、井手口は2戦目のコロンビア戦でスタメン出場すると“らしさ”を発揮し、チームも2-2の引き分けに持ち込んだ。
手倉森誠監督は「井手口はこういう苦しい時にこそ力を発揮できる選手。非常に気持ちが強いからね。走って奪って仲間を助けてくれるので、一番若いけど頼りにされている選手だと思う」と、井手口を高く評価していた。
井手口に「ケンカ番長」というニックネームをつけたのは誰あろう手倉森監督だが、武闘派は世界の舞台でこそ力を発揮するということを見抜いていたのかもしれない。
しかし井手口自身はグループリーグ敗退が決まった後、悔しさを噛みしめていた。
「メダルを目指していたんで、それができなかった。自分のプレーも周囲をうまく使えるようになれれば、もっと違う展開ができたと思う。もっとできたかなと思うけど、これが今の自分の実力だと思います」