球体とリズムBACK NUMBER
オーストラリアは空中戦を卒業済み。
名監督が起こした「革命」の濃密さ。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byAFLO
posted2017/08/30 11:30
デゲネクはコンフェデ戦のドイツ戦でもプレーした。世界の強豪と対戦し続けた現アジア王者の実力は、侮るなど言っていられないレベルである。
ロングボール&フィジカルから“ロアセロナ”に。
それまでのオーストラリア代表といえば、ロングボール、フィジカル、闘争心が代名詞の古いブリティッシュスタイルのようなものだった。体格が良く、運動能力に秀でた選手たちに適した戦術といえるかもしれないが、90分間、主に空中戦とぶつかり合いを見せられるサポーターは、そんなサッカーを好きになれただろうか。熾烈なボディコンタクトなら、他のスポーツの方がもっと迫力がありそうだ。
ポステコグルは'09年から'12年までブリスベン・ロアーを率いていたとき、バルセロナのようにショートパスで崩すスタイルで成功を収め、そのチームは“ロアセロナ”と呼ばれた。
ギリシャにルーツを持つ52歳の指導者は翌年に代表監督に任命されると、その手法をサッカールーズにも持ち込み、'14年W杯はチリ、オランダ、スペインと同居するグループで敗退したが、その清々しい戦いは国内で評価されたという。そして'15年のアジアカップを制し、コンフェデへの切符を手にした。成長の跡は誰の目にも明らかだ。
「素晴らしい取り組み。100%、ボスを信じている」
Jリーグでプレーする唯一のサッカールー(選手は単数形で表される)、横浜F・マリノスのミロシュ・デゲネクに「革命」について訊くと、「素晴らしい取り組み。僕ら選手たちは100%、ボスを信じているよ」と笑顔で答えてくれた。
「ボスはオーストラリア代表のスタイルを変えた。以前は長いボールを蹴ってとにかく戦うことを前面に押し出していたけれど、今のチームはショートパスをつないで、きちんとフットボールをする。それに適したクレバーで技術のある選手も多い。僕もパスを多用するスタイルが好きだよ。頭を使ってスマートにゲームを進めていくのはやっていて楽しいしね」
日本在住のオーストラリア人記者スコット・マッキンタイア氏によれば、彼の母国のフットボールはそもそもクロアチアなど東欧の影響を受けて発展してきたもので、技術的な下地はあったという。たしかにこの国の代表選手の苗字は、ロギッチ、スピラノビッチ、ユリッチなど、旧ユーゴスラビア系が多い。ミロシュと命名されたデゲネクもその1人だ。