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AFCが済州に下した処分を検証する。
日韓サッカー騒動史に新たな視点を。
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/06/10 08:00
結果的に、世界中のメディアが報じるほど大きな問題になった浦和vs.済州戦。この事件から、我々は何を学ぶことができるかが大事である。
最悪のシナリオだと浦和が損する可能性もあった。
最悪のシナリオはこうだった。
済州の選手のみならず、済州側から「挑発があった」と名前の挙がっていた槙野、武藤雄樹、ズラタンらに出場資格停止処分が下される。済州の選手にどんな処分が下ろうと、彼らのACLは終わっている。いっぽうここから準々決勝を戦うチームの主軸が欠けてしまっては、最終的にこちらが大損。
そういう可能性があったのだ。
実際にAFCの規定では「非スポーツ的行為」に対しては「その重さにより処罰が決まる」との記述がある。
どう判定されるか分からない。それを決定する権利はこちらにない。
感情は別としてそれは歴然とした事実だった。
善悪の度合いは、あくまで仲裁機関が決めるもの。
筆者自身も当日、現地で取材をしながら済州の行為には怒りを感じた。しかし日韓サッカーのトラブル史も目にしてきたなかで、次の点も痛感してきた。
「相手が悪い、と非難はできる。しかし善悪の度合いはあくまで仲裁機関が決める」
2012年のロンドン五輪後の「竹島プラカード」の件もそうだった。こちらから見れば“クロ”と思われたものが“シロ”に転じた過程を観てきたゆえ、「結局は仲裁機関(今回はAFC)の決定次第」という思いが強かった。
2日の段階で浦和からのAFCへの意見書はすでに提出されていた。その後は少し待つ方がよいという考えがあった。
とにかく取材し続け、事実を積み上げていった。
済州を刺激すればするほど、頑なになり、AFCにも強く主張する。相手は基本的に詫びない。その点は明確だった。
5月31日の試合当日、現場で取材をしていた。試合後、チョ・ソンファン監督は会見で暴力について質問が飛ぶと「一方的なことはなかった」と言い切った。文脈のなかで「(浦和側に)マナーに反する行為があった」と口にしていたから、ここを掘り下げて聞いてみた。
「試合中から嘲弄する行為があった」という。
またミックスゾーンでは試合出場のなかったMFイ・チャンドンが「相手の左DFの選手(槙野)がこちらにペットボトルを投げて挑発してきた」と口にしていた。
何はともあれ当日の機会を逃すと、相手の主張を聞く機会は極端に限られる。そう考えて情報を収集した。