オリンピックへの道BACK NUMBER
小塚崇彦も本田真凜も心を打たれた。
村上佳菜子、泣いて笑った引退決断。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2017/05/06 08:00
引退決断を発表したリンクで花束を受け取った村上。彼女らしい、屈託のない笑顔だった。
小塚、本田が「心に残った」と語るフリーの演技。
2016-2017年シーズンも、思うような演技ができずに苦しみ続けた。そして迎えたのが全日本選手権だった。
フリーの演技について、小塚崇彦は言った。
「(大会で)いちばん心に残ったのは浅田真央、村上佳菜子選手です。点数化されたシステムには表れない感動がフィギュアスケートの魅力です。浅田選手と村上選手には経験の違いというか、雰囲気がありました」
本田真凜も全日本選手権の少し後に、こう語った。
「最近の中で言うと、全日本選手権の村上佳菜子ちゃんのフリーが、いちばん心に残る演技だったと思います」
スケーターたちだけではない。演技後の場内のあたたかな拍手こそ、村上の演技への最大の賞賛であった。
「ここで逃げ出したら何も乗り越えられない」
今年の1月、村上はこう語っていた。
「ジャンプも決まったし、間のつなぎも望んでいたことをできたのが全日本でした。ソチからできていなかったことが、できてよかったと思います」
長い不調のあと、成し遂げられたのはなぜだったか。
「やっぱり逃げ出さずに続けてきた、やってきたからだと思いますが、いちばんは、先生たちが信頼し続けて教えてくれた、見捨てないでいてくれたことだと思います」
毎日、「ここで逃げ出したら何も乗り越えられない」と自分に言い聞かせていたとも言う。過ごしてきた時間がどれほど厳しいものだったかをうかがわせる。