オリンピックへの道BACK NUMBER
小塚崇彦も本田真凜も心を打たれた。
村上佳菜子、泣いて笑った引退決断。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2017/05/06 08:00
引退決断を発表したリンクで花束を受け取った村上。彼女らしい、屈託のない笑顔だった。
ソチ五輪後、全日本選手権で「跳ぶのが怖くなった」。
ソチ五輪のあと、いつもコストナーを頭に描き、練習に励んできた。
だが、村上の思いとは裏腹に、スケート人生は暗転する。
ソチのあと、立ち位置が変化した。鈴木明子が競技から退き、浅田真央は休養を選択した。勢い、押し出される形となり、周囲からは牽引する存在と期待されるようにもなった。村上自身、「引っ張っていきたいと思います」と言うこともあったが、その立場はプレッシャーでもあった。笑顔が消えるときも少なくなかった。
そんな村上が叩きのめされたのは2014年の全日本選手権だった。ショートプログラムの複数のジャンプで回転不足と判断され、9位にとどまった。得点を見た瞬間、笑顔が一瞬で消えた。
試合後の取材で問われると「分からないです」と辛うじて言葉にした。今までは大丈夫だったはずなのに、なぜなんだろう……衝撃の大きさは、何よりも生気の失せた表情が物語っていた。
「自信をなくしたきっかけがあの全日本だったと思います。あれから跳ぶことが怖くなりました」
「自分にとってスケートがすべてだったので……」
その後もジャンプに苦しめられた。
「小さな頃から感覚で跳んできたために、苦労しているのだと思いますけれど」と昨年の全日本選手権で語っていたが、修正はままならず、大会での成績も低迷した。2016年には5年連続で出場していた世界選手権の代表からも外れた。
いくら頑張ってもどうにもならない。練習に行きたくない、もうやりたくないと思う日もあった。
それでもリンクに向かうのをやめなかった。やめるわけにはいかなかった。
「自分にとってスケートがすべてだったので、それをとったら何もなくなってしまうので」