濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
新たな風景を見せるRIZINのリングで
39歳の“オヤジ”川尻達也が輝いた日。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2017/04/22 08:00
試合終了直後、やり切ったという表情を見せた川尻。その熱い戦いぶりで、昔から熱烈なファンも多い。
再起をかけるベテランがメインイベントに。
実はメインイベントの川尻vs.アンソニー・バーチャックも“UFC自主離脱組”同士の対戦で、MMAの世界的な流れを受けてのマッチメイクということになる。とはいえ、RIZINで重視されるのは試合の意味でありドラマ性だ。
この試合で言えば、大晦日のクロン・グレイシー戦で敗れ、一時は引退を決意したかに見えた川尻が復活できるかどうか。そんなテーマがあるからこそのメインイベントで、単にキャリアが長いから出番が最後というわけではなかった。
川尻が見せたしつこく、しぶとい闘い。
那須川が秒殺KO、RENAが逆転KOで会場を盛り上げ、堀口はDEEPの看板選手である元谷友貴に完勝した。若い選手たちがこれでもかと存在感を残した上で迎えたメイン。川尻は川尻にしかできない試合をしたと言えるだろう。
相手に組み付き、スタンドで“おんぶ”状態から裸絞めを狙う。グラウンドではひたすらパウンドだ。
バーチャックが足を胴に絡めるクローズドガードを解かないためポジションを進めることはできなかったが、その中で最大限のパワーを込めた拳を打ち下ろした。しぶとく、しつこく攻める。不格好でも体力の限界まで前に出るスタイル。
センスやプロとしての“華”に自信はない。
でも、川尻はそうやって勝ってきた。
川尻は茨城県出身で、今も地元に住み、練習している。ジムはもともと仲間内のサークルのようなものだった。東京のジムに出稽古に行く時は「俺らホントに通用すんのかな」と不安になった。実際、組み技のスパーでは敵わなかったが、パウンドありでやったら通用した。
桜庭和志に代表される“華麗な極め”こそ日本人の武器だと思われていた時代に、川尻たち茨城勢はフィジカルとレスリング力を鍛え、無骨に殴るスタイルで頭角を現したのだった。