濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
新たな風景を見せるRIZINのリングで
39歳の“オヤジ”川尻達也が輝いた日。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2017/04/22 08:00
試合終了直後、やり切ったという表情を見せた川尻。その熱い戦いぶりで、昔から熱烈なファンも多い。
マウントパンチに込められた勝利への執念。
そんな闘い方がここで、RIZINのメインイベントで出た。もうすぐ39歳、プロキャリア17年のベテランが「しがみついてでも勝ちたかった」という、その気持ちがそのまま表れたような闘いぶりだ。圧巻は試合終了間際のマウントパンチ連打。
「固めて終わりにはしたくなかった」という川尻だが、気持ちと体力が高いレベルで噛み合っていなければできないことだろう。普通なら疲労困憊のはずの時間帯なのだ。
闘病中のジム仲間に向け「俺は勝ったぞ! 次はお前の番だ!」とエールを送った川尻。2015年12月以来の勝利、3連敗から脱出して得たトロフィーは、いつもねぎらいの言葉をかけてくれる愛娘にプレゼントしたそうだ。
仲間のために、家族のために頑張る。そう書いてしまうと“いかにも”すぎるかもしれない。でもそういうことは、確かにある。“自分ひとりの力だけで頑張りきれるものではない”という現実も関係があるのだろう。川尻vs.バーチャックは、嫌というほど挫折を味わった男ならではのメインイベントだった。
「オヤジとして若い選手に負けてらんない」
久々の勝利で、川尻は完全に息を吹き返したようだ。
今年のRIZIN全大会への出場を希望し、一夜明け会見では「川ちゃん勝手にひとりサバイバー・トーナメント」開催を宣言。自分の試合すべてを仮想トーナメントとし、“決勝”にクロン・グレイシーを引きずり出したいのだと言う。
「今年39歳ですけど、まだ人生の折り返し地点にも行ってない。オヤジとして若い選手に負けてらんないですから。30代、40代の人たちを巻き込んでいけたら」
オヤジ、頑張れ。
きっとみんながそう思っている。
川尻が楽しそうにしていると、格闘技ファンも楽しい。そういう存在なのだ、川尻達也は。
もちろん、それも結果を出したからこそだ。「若い選手に負けてられない」という言葉は、RIZINのメインストリームがどこであるかをはっきり示してもいる。
今はもうRENAの時代、那須川の時代、堀口の時代で、だから川尻は安心して“オヤジ”になれたのだ。