マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高橋純平を睨み、見守る“鬼”が1人。
担当スカウトが選手のためにする事。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/02/15 07:00
プロ入り時にソフトバンクの歴史に残る好条件で契約した高橋純平。2年目の19歳だが、周囲の期待はすでに過熱しはじめている。
高橋を推した担当スカウトが、鬼の形相で睨む。
快速球の球筋を追って、捕手のミットに噛みついたような乾いた捕球音が響き渡って、「ナイスボール!」と叫んだ捕手の後ろに、見知った顔があった。
ソフトバンク東海地区スカウト・山崎賢一。
県岐阜商の絶対的エースとして全国に名を馳せていた高橋純平を3年間追い続け、2015年ドラフトのトッププレーヤーとして球団に推奨し、ドラフト1位指名後は入団交渉も行なった担当スカウトである。
捕手の真後ろ、ネット越しにじっと目を凝らして高橋純平の球道を見つめ続ける。
視野の中にはブルペンに詰めかけた多くの報道陣やファンがいて、高橋純平の横でやはり奮投を続ける松本裕樹だって映っているはずなのに、山崎スカウトの視線は執拗に高橋純平のボールだけを追い続ける。
いつもはフレンドリーに話しかけてくれる温厚な紳士が“鬼”の形相で立ちつくす。
ナイスボール1つで、誰が信じるか、そんなもの。2つ続けたら、だったら3つ続けてみろ。3つ続いても、ブルペンなら5つ続けて、プロならそれで普通なんだ。
冷徹な“気”を送り続けるように、鬼が捕手の背中に立ち続ける。
ラスト1球、間違いなく145キロは出ていた快速球がホームベースの右端に低くきまり、ありがとうございました! と捕手に向かって高橋純平が帽子をとって、ようやく山崎スカウトが詰めていた息を一気に吐き出したように見えた。
「うん、今日はいい形で投げてたと思うよ」
こちらと目が合って、初めていつもの“山崎スマイル”が送られてきた。
今日はよかったですよね、と振ったら、
「うーん……」
いつものように、ちょっと首をかしげて考えている。“反射”でものを言う人じゃないから、話が信用できる。
「形としてはね……うん、今日はいい形で投げてたと思うよ。体の方向がよかったよね、テンポもよかったし、うん」
以前から気になっていた“開き”の早さが、修正されつつあるのが嬉しそうだ。