“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
身長が低くてもGKはやれる――。
青森山田、廣末陸とコーチの物語。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/01/15 11:30
廣末(写真左)と大久保コーチ。トレーニングウェアの上からも、その鍛え上げた肉体がよく分かる2人である。
ついに激突しまった、廣末と大久保!
その日は非常に暑い日だった。「練習が本当にキツくて……。それを理由に『これくらいでいいだろう』と思ってトレーニングをしてしまった」と言う廣末。シュート練習の際に、ボールに食らいついていくような積極的な姿勢を示さなかったらしい。
それを見た大久保が「お前、何やっているんだよ!」と怒号をあげた。それに対し、廣末は「そう言われても、こっちはモチベーションは上がりません」と反論。大久保は「じゃあ、もう良いよ!」と廣末に背を向けた。
最悪の状況だった。異様な空気が2人の間に立ちこめた。
「ここはあくまで『青森山田高校サッカー部』であって、ましてや彼はまだ2年生で、彼が試合に出ていることで3年生のGKが試合に出られないという事情もある。それでも3年生GKは練習時でもしっかりと振る舞っているのに、陸の自覚は足りなかった。GKはたとえ練習でも、多少無理なボールでも止めに行く姿勢を見せるべきなのに。そのワンプレーでビッグセーブが生まれたら、チームに活気が出るじゃないですか。陸にはその自覚がないように感じた」(大久保)
「陸、すまなかった」
大久保にしてみればあくまでもチームのことを思っての怒りだった。だが、そのコーチとしての言葉はまだ未熟で、廣末の心には響かなかった。自分の発言と廣末の態度を受けて、一度は頭に血が上った大久保だったが……すぐに冷静になれたという。
「俺は陸を上手くさせたいし、陸も上手くなりたいと思っている。想いは一緒じゃないか……。俺は陸が良くなって欲しいという想いから伝えている。ただ、表現方法が良くなかったと感じた」
その後、大久保のとった行動が、一気に廣末の心のもやもやを溶かし、逆に強固な信頼を生む瞬間をもたらした。
「陸、すまなかった」
シュート練習の後、大久保が廣末に謝罪をしたのだ。
「びっくりしました。正直、僕はあの後、頭に血が上っていて、シュート練習がまったく身に入らなかった。なのに、大久保さんは凄く大人だった。逆に自分があまりにも幼いことに気がついた。人間として成長をしたくて、青森に来たのに、自分は全くの子供だったと痛感しました。同時に大久保さんの僕に対する熱い想いが心の中に染み込んで来て……『この人について行こう』と心の底から思えたんです」
廣末も「申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉がスッと出たという。この事件をきっかけに、2人の関係は劇的に変わった。