「身長で悔しい気持ちを味わってきた苦労も……」

「僕自身も陸の性格をまだ深く理解していなかったんです。でも彼とのやり取りの中で、まず相手を深く理解することと、接し方やコミュニケーションのやり方を凄く学ばせてもらった」（大久保）

「それまでは何気に見ていたけど、大久保さんのあのガタイと筋肉、技術は、他の人では見たことがないものだと気づいた。身長のハンディを何か他のもので補おうとしていた努力が目に見えて分かった。同時に、身長で悔しい気持ちを味わってきた苦労も凄く感じたんです。現役時代は知らなくても、コーチとしても、その努力の名残がはっきりとあるんだと感じました。

　身長の高いGKには絶対に負けたくない。この想いで、2人で何度も意見交換をしたし、アイデアを出し合いながらトレーニングして来た。大久保さんはプロになれなかった。だからこそ、僕は大久保さんの想いを背負ってやっていかなければいけないと思った」（廣末）

「優勝して、2人で笑い合いたい」

　あの夏の出来事を境に、廣末は劇的に成長を遂げることとなった。

　U-18、U-19日本代表に定着すると、再評価される形でFC東京入団内定を掴み取り、高円宮杯チャンピオンシップを制したことで、大久保の時代以来となる2度目の全国優勝を掴みとったGKになった。

　そして、「優勝して、2人で笑い合いたい」と、決意を持って迎えた廣末にとって最後の選手権。
「GKがしっかりとゲームを左右するチームは強いんだ」

　これは大久保が廣末に3年間言い続けた言葉だ。

　この言葉を胸に刻んだ廣末はこの大会で何度もビッグセーブを披露し、得意のキックでチームの勝利に貢献し続け、悲願の選手権初優勝を掴み取るまでに至った。

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