球道雑記BACK NUMBER
佐々木千隼に桑田真澄イズムあり。
大学最後の大会での快投、本塁打。
posted2016/11/24 17:00
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
NIKKAN SPORTS
田中正義、京田陽太、柳裕也ら今年のドラフト会議で指名された同級生対決の質問が記者団から飛んでも桜美林大学・佐々木千隼の答えはいつも決まって変わらなかった。
「僕と彼の戦いではないので……チーム全員で勝ちたいです!」
全員野球――。
彼の胸の内に秘められたその言葉にかける想いは、11月14日、明治神宮大会の第4試合、8回表に迎えた彼の第4打席にも詰まっていたように思う。
8回表2死走者なし。試合が開始して早々から降り出した雨がこのとき一段と強くなっていた。
スコアは桜美林大学が5対0で環太平洋大学をリード。この日、先発のマウンドに立った佐々木は多彩な球種で相手打者を翻弄し、そのイニングまでノーヒットピッチングを続けていた。
チェンジアップを強振し、神宮の右中間スタンドへ。
5点差、終盤のイニング、慣れない攻撃面での負担、雨天で力投を続けた分の体力ロス。
こうした状況を考えれば「この打席、バットを振らなくてもいいんじゃないか」と見ていて思った。
しかし、佐々木の考えは違った。5点リードの8回表、外寄り低めのチェンジアップを強振すると、打球は右中間スタンドの中段付近に飛び込んだ。
ダメ押しの6点目。その瞬間、球場内が大きくどよめいた。
断っておくが彼の本業は、もちろん投手である。
彼が属する首都大学野球連盟は指名打者制を採用しているため、シーズン中に打席に入ることはおろか、そのための打撃練習をすることもない。その状況下でこの打撃である。改めて彼の勝利への執念と潜在能力の高さを思い知った。