炎の一筆入魂BACK NUMBER
鈴木誠也は日本一の選手になれる。
前田智徳とも通ずる深い求道精神。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/06/09 14:00
高校時代は最速148キロの投手だった鈴木。50mを5秒8という俊足で、長打力もあるという図抜けた才能に加え、メンタルも強い。
「日本一の選手になれると思って見ているから」
「俺たちは誠也にレギュラーを期待しているわけじゃない。日本一の選手になれると思って見ているから」
東出輝裕打撃コーチの言葉に、周囲の評価は集約されている。本人の潜在能力の高さは、周囲の期待をいやが上にも高める。何より鈴木自身が、現状に満足していない。
「三振してベンチに帰ってきたとき、あいつは本当に悔しそうな顔をしてる。落ち込んで帰ってくる選手や悔しさが表に出ない選手には何か言いたくなるが、あれだけ自分に対して怒りを感じている選手に俺たちが何か言う必要はない」(東出打撃コーチ)
打撃練習を終えて口を一文字にして厳しい表情で引き揚げることも珍しくない。
悔しい。
不甲斐ない。
情けない。
腹が立つ。
普段はにこやかで明るい好青年だが、打撃に対する感情は隠そうとしない。
寝ている時でさえ、バッティングのことを考えている。
寝ても覚めても打撃のことばかり考えている。内川に師事した1月の合同自主トレでは「食事の時間が惜しい」と口にしながら練習中の動画を見入った。球場から宿舎、球場から寮へ帰るとき鈴木はバットを持ち帰る。
部屋でバットを握ることも珍しくない。その中で、閃くこともある。
殻を破り切れないでいた5月中旬の夜中だった。ベッドに横になり、頭の中で打席に立つ自分を俯瞰して見ていた。テイクバックを取る際、力を加えようとグリップを引きすぎる動きが気になった。
「無駄な動きがあるなと感じていたんです。なるべく無駄を省きたい。無駄のないフォームを探していたんです」
咄嗟に立てかけていたバットを握り、窓ガラスに映る自分と向き合った。そして携帯電話に手を伸ばし、往年の好打者の映像を繰り返し見た。三冠王を獲得した落合博満氏や原辰徳氏らはテイクバックが小さく、無駄がない。そして、力強い打球を放っていた。