炎の一筆入魂BACK NUMBER
鈴木誠也は日本一の選手になれる。
前田智徳とも通ずる深い求道精神。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/06/09 14:00
高校時代は最速148キロの投手だった鈴木。50mを5秒8という俊足で、長打力もあるという図抜けた才能に加え、メンタルも強い。
“孤高の天才”前田智徳を継ぐ存在へ。
翌日、休日を返上してマツダスタジアムでバットを振った鈴木は、「3割に戻しますよ」と言った。
打率を3割に乗せたのは、あれから半月も経たない6月5日のことだった。
夜中でもバットを振り、打撃に納得がいかなければ自分への怒りを露わにする。深い求道精神は、過去に広島の背番号51を背負い、“孤高の天才”と称された前田智徳氏に通ずるところがある。
打撃練習で「素手の方が滑りにくい」と手袋をつけずにティー打撃を行い、バットの塗装にも独特なこだわりを持つ。前田氏が「バットのしなり方が違う」とバットの塗装を黒にしたのに対し、鈴木は今季から「打感が違う」と黒から白に変えた。メーカー担当者でさえ「本人にしか分からない感覚」と言う繊細さだ。
入団時から前田と比較され、最近ではヤクルト山田哲人と比較されてきた。別に“天才”と呼ばれたいわけでも、 “トリプルスリー”を目指しているわけでもない。
ただ「もっと打ちたい」「もっとうまくなりたい」「勝ちたい」。
純粋なまでの渇望感が鈴木を突き動かしてきた。
まだ何も満たされていない。レギュラー獲りはあくまで通過点であり、新たなステージへ向けた始まりに過ぎない。