炎の一筆入魂BACK NUMBER
たった5球で3連戦の流れを変えた男。
広島・今村猛が目指す「新しい自分」。
posted2016/04/15 10:40
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Nanae Suzuki
5球に思いを込めた――。
4月上旬、甲子園での阪神3連戦の2戦目。広島の今村猛は、6回2死から迎えた江越大賀にすべて直球勝負で挑んでいた。
ファウル、ボール、ファウル、ファウル。
最後の147キロは江越のバットの上を通り過ぎた。乾いたミット音が、甲子園を360度埋めた虎党の歓声をため息に変えた。
流れは完全に阪神にあった。4回に江越が広島先発黒田博樹からセンターバックスクリーンへ先制2ラン。4回には、その黒田が打球を左足に受けて降板するアクシデントもあった。さらに、広島は前日の土壇場9回にサヨナラ負けを喫している。今季初の本拠地での3連戦で、金本阪神を応援する虎党のボルテージは上がる一方だった。
響き渡る大歓声の中、黒田の緊急降板によって5回からマウンドに上がっていた今村は冷静だった。
「流れを変えたかった。とにかくテンポよく投げようと。そして、あそこは三振を狙っていた」
野球には流れがある。プレーボールからゲームセットまで、流れをつかみ得点を奪えるかどうか。この試合、4回に阪神・高山俊がチーム初ヒットでもたらした流れを江越が一振りで得点に結びつけたことで試合が動き出した。4回に黒田が左足に打球を受けて降板し、流れは大きく阪神に傾いていた。
阪神のラッキーボーイを仕留め、流れを変えてやる!
流れを持ってくるためには、守備から攻撃へと変わる3アウト目の取り方が大事だと今村は感じていた。
相手が「4試合連続本塁打」を記録している阪神のラッキーボーイ的存在・江越だったことも、流れを変えるにはうってつけだった。
「一か八かというのもあるけど、あそこは全部真っすぐで三振を狙った」
そして、今村は“その勝負”に勝った。