炎の一筆入魂BACK NUMBER
たった5球で3連戦の流れを変えた男。
広島・今村猛が目指す「新しい自分」。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNanae Suzuki
posted2016/04/15 10:40
2009年のセンバツを制覇した公立高・清峰(長崎)のエースだった今村。広島に来ても、そのガッツは誰にも負けない。
対阪神3連戦の流れを大きく変えた、今村の5球。
その後も、広島中継ぎ陣が引き寄せた流れは途切れることなかった。さらに2度の阪神打線の攻勢を抑えると、8回には同点に追い付き、流れは完全に広島へと傾くことに。結局、広島が延長10回に4点を奪い、試合をものにする。
今村の勝負が、3連戦そのものの流れを大きく変えたのだ。3戦目も勝利した広島は、連勝を伸ばし2年ぶりの首位に浮上している。
今村が5球続けた直球勝負は、試合のハイライトには見えなかったかもしれない。だが、この苦しみもがく右腕の賭けが、流れを変えたことは間違いない。
「広島の投手陣をナメルなよ」
あの5球には、広島投手陣の意地もあった、という。
「広島の投手陣をナメルなよ、というのも見せたかった」(今村)
開幕から広島中継ぎ陣が苦しんでいる。
セットアッパーのジェイ・ジャクソン、抑えの中崎翔太につなぐ7回のポジションが決まらず、15試合消化時点で逆転負けはすでに4度(6敗中)もあった。継投ミスが悪循環を生んだ要因は、首脳陣だけでなく、選手にも責任の一端はある。
開幕時から(新人の)オスカルと中田廉とともに中継ぎとして“7回の男”候補に挙げられていた今村だが、開幕からずっと投球が安定しなかった。
そして今村が戦っているのはチームメートだけではない。もう1人の自分とも戦っている。
高卒2年目の2011年に54試合に登板し、'12年は69試合に登板した。WBC日本代表にも選出され、国際舞台にも立った。伸び上がるように外角低めに制球された直球は、打者が真っ直ぐを待っていても打てないほどの切れ味があった。
しかし'13年から、広島では勝ちパターンから外れていく。すでに、登板過多によって体は悲鳴をあげていた。直球の切れ味が落ち、変化球でかわす投球も目立ち始めた。連投の影響からシーズン中のトレーニングを継続できなくなったことも響き、さらに体の切れが無くなると共に、球質がどんどん悪くなっていった。