なでしこジャパンPRESSBACK NUMBER
W杯連覇に挑む23人がベストな理由。
なでしこの勝てない相手に勝つ方法。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAFLO
posted2015/06/03 11:00
精神的な支柱、という表現をされることが多い澤穂希だが、彼女はプレーヤーとしてもなでしこにとって極めて重要な存在である。
澤の復活は、なでしこに“縦”の強さをもたらす。
もちろん澤穂希は、「なでしこらしさ」を演出する上で絶対に欠くことのできないピースである。指揮官は言う。
「今現在、INAC神戸でのパフォーマンス、90分間の集中力、そしてチーム内で誰よりも体を張ってスライディングする意欲のある戦える選手ということで、戦えるチームにしていきたいという意味で選考させていただきました。90分最後の最後まで集中し、体を張って戦っている姿勢というものは、やはりなでしこの姿勢であると」
5月に行なわれた2つの親善試合でも、澤のコンディションのよさと変わらぬ姿勢は明確に見て取れた。ゲームの流れを読み、決断して一歩踏み込む力は、コンディションの上昇によってより一層輝きを増す。ニュージーランド戦では得意のセットプレーからゴールを奪い、中盤で阪口夢穂とコンビを組んだイタリア戦でも絶大な存在感を放った。
特にイタリア戦は、澤の攻撃的なポジショニングが相手を自陣に押し込む決め手となった。近年の澤は、創造性のある宮間や抜群のテクニックを誇る大野忍、スピードに優れた川澄奈穂美に隠れて「守備の人」と見られることも多いが、相手のパスを読み、リスクを負いながらも一歩前に出てボールを奪おうとするチャレンジは、おそらく強い攻撃性によって支えられている。
阪口との位置関係はスタート時こそ横並びだが自然と縦並びとなり、攻撃時には迷うことなくゴール前に飛び込むプレー、守備時には“一つ前”でボールを奪おうとする澤のプレッシャーが、相手を自陣に追い込む決定打となった。横にボールを回すことにおいては世界屈指のレベルにあるなでしこジャパンにとって、澤は“縦”の脅威を相手に植え付けられる貴重な存在だ。彼女がいるからこそ、宮間や阪口を起点とする“横”がさらに活きる。この仕事は、澤にしかできない。
優勝候補が抱く様々な思いと覚悟。
戦力として不可欠なラストピースの復帰によって、チームは指揮官が言う「なでしこの姿勢」を取り戻した。
2008年の北京五輪以降、佐々木監督が時間をかけて作ってきたチームは、2011年のW杯で世界との壁を取り払い、内容的には埋まらない差を感じながらも、勝負としてそれと向き合ってきた。ピッチ外からもたらされる「負けちゃいけない」というプレッシャーは、結果的には彼女たちを強くもした。
手にした結果は、次につながる。そうした意識をもって臨む今大会こそが、彼女たちにとっての「本番」である。
真価が問われる。次につなげる。そして純粋に、このチームで勝ちたい。
様々な思いと覚悟を抱きながら、優勝候補として臨むW杯が間もなく幕を開ける。