マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
早実・清宮幸太郎が持つ稀有な“手”。
パワー以上に目立つ、圧倒的ミート力。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2015/04/16 11:30
父はラグビートップリーグでヤマハを率いて昨季日本一になった清宮克幸。小学校時代から注目されてきた幸太郎もいよいよ高校生。その成長、進路が今から楽しみだ。
実際に見るまで、実はそこまでときめいていなかった。
シートバッティングで150mだか飛ばしたと聞いて、へえーっと思ったりもしていた。きっと“とんでもないヤツ”なのだろうが、実はそこまで胸がときめいていなかったのは、「単なる力持ち」でなきゃいいが……という思いからだった。
早稲田実業高には、これまでもそうした“怪力くん”が何人も入学してきた。多くの実績を残し、人気もある伝統校であり、あの「荒木大輔投手」よりもっと前から調布リトルシニアとのつながりのあった「早実」なので、私が覚えているだけでも、この40年で、この手の“超高校級スラッガー”の進学は10人を超え、その多くが、残念ながら開花寸前でその成長を終えていた。
大谷翔平と共通する、“手”の上手さ。
試合は6回に進んでいた。
3-5の劣勢を巻き返して同点にした直後の1死満塁。ベンチとしては一気に突き放したい場面。欲しいのは長打だ。
スタンドがイメージしていたのも、渾身のフルスイングからの雄大な放物線だったはずだ。
オーバーハンドの右腕が振り下ろされて、左打席の清宮選手の外角低めにスライダーが沈んだ。
低すぎてショートバウンドかと思った。
とっさに、清宮選手のバットコントロールが反応する。
バットヘッドをしならせるようにして低めのボールを拾うと、インパクトで両の手首を絞るようにしてヘッドを返し、強く低いライナーにして三遊間を抜いてみせた。
すぐ右横を抜かれた遊撃手が1歩も反応できなかった。それほどの打球スピード。
ただの流し打ちじゃない。
ムリに表現すれば、「レフト方向への痛烈ピッチャー返し」。まさに、ワザあり! のワンスイングだった。
手が上手いな……と思った。
聞いていたパワーより、技術のほうに感じ入ってしまった。
外のボールを三遊間に持っていくのを得意とする左打者は少なくないが、これだけ強烈な打球を弾き返せる左打者はなかなかいない。近いところでは、日本ハム・大谷翔平がそうしたタイプ。こういう左打者は、レフト方向へのホームランだってなんてことなく放り込むものだ。