野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
ヤクルト芸術家、まさかのブレイク!?
真中新監督もながさわ画伯の毒牙に!
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHirokazu Kobayashi/pia
posted2015/02/06 10:30
東京・新宿区で行なわれた個展会場にて、取材陣にポーズを求められるながさわ画伯。いつになく晴れやかな笑顔だ。
真中新監督はこの男の恐ろしさをまだ知らない。
ながさわは、一緒に辞めることができなかった。それはヤクルトファンというよりも、芸術家としての意地みたいなものだった。
「そんなモヤモヤを抱えたまま今年に入って、個展を開催する前日に、球団行事に参加した小川監督に会うことができたんです。球団の人は勝手に接触されると困るみたいな感じだったんですけど……。
ファンの人と一緒に出待ちをして、ちょっとした隙に俺の本を渡して、サインを貰ったんです。球団の人から『またあいつか……』という視線をビンビンに浴びましたけど、小川さんになんて言っていいのか、いっぱいいっぱいだったけど『何もできずに申し訳ありませんでした。でも、俺は小川さんが辞めた後のスワローズも応援していきます。最後に僕に言葉をください』といいました」
小川前監督は、ながさわの本に“感謝”という言葉を書いた。
その心に触れた瞬間、ながさわの顔は涙でぐちゃぐちゃになった。自分のやっていることは間違いじゃない。この傍から見ればどうかしているとしか思えない4年間の活動も、小川さんが肯定してくれたことで救われた。
「これで僕は覚悟を決めました。僕はスワローズを描き続ける。優勝するシーンを描かなければ、この作品は完成しません。真中新監督にも挨拶をさせてもらいました。自分の活動の主旨を説明したら『おお、いい男に描いてくれよ』って。いい感触でした」
……真中新監督。まだあなたはこのヤクルト画家の本当の恐ろしさを知らない。
今年も沖縄で、チームとともにキャンプインする。
今回の個展で、ながさわはいつもと展示方法を変えていたそうだ。
ギャラリーに入ると前一面の壁に、2013~2014年シーズンの作品が継ぎ目無くずらりと並んでいる。それは壮観な一枚の作品のようにも思えるが、野球ファンからみれば一枚ずつ、試合の詳細が見辛くなったともいえなくもない。
それはながさわなりのこだわりだった。これでも野球ファンに作品へ食いつかせることができるのか。選手を知っている知らないではなく、作品として見てもらえるか。そして、ひとりの男がどれだけのことをやれたのかということを、ビジュアルとして知覚できるように。
それらをすべて見渡せる対面の壁には、一番見てもらいたい人、“いい男”に描かれた真中満新監督その人の絵が飾られていた。
そして、会期最終盤のある日には、スワローズ衣笠球団社長が画廊を訪れるなど、傍目では引き続き強力な追い風が吹いていることは間違いない。
新たな決意を元に挑む2015年シーズン。今シーズンが終わる頃には、どんな成果が出ているだろう。ブレイクか逮捕か。どちらにしても、沖縄・浦添“学園通り”でチームと共にキャンプインする3年目の企画展がその第一歩となる。