マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
華やかなドラフトの陰で流れる“涙”。
無指名、意中外、育成枠の男たち。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/11/08 10:50
日本シリーズ優勝に貢献したソフトバンクの攝津正も、ドラフトで涙を呑んだ選手の1人。ドラフトが選手の価値を決めてしまうわけではないのだ。
「すべり止め」の内定を得られる高校生は多くない。
指名がなかった時のために、高校生、大学生は「受け皿」と呼ぶすべり止めを作っておくことも多い。
これが「プロ待ち」というヤツで、「指名がなかったらお願いします」という条件で、大学や社会人チームから内定をもらっておくのだが、これが近年なかなかたいへんで、「プロ待ち」を受け入れない大学、社会人が増えている。
世は不景気気分が続いている。傾向としては「買い手市場」である。
とりわけ、社会人野球の企業チームの数は、最盛期のおよそ3分の1、90チーム弱に減っている。さらに、その多くのチームが新規採用を即戦力の大学生中心にしており、高校生の進路から事実上、「社会人企業チーム」は消えているといってよい。
経済的な事情で進学が難しい選手は、腕におぼえがあればあるほど「プロ志望届」を出してドラフト指名を待つことになるのだ。
育成ドラフトに潜む「3年間」という期限。
「育成でもいいから……」
選手にとってプロ入りの“最後の手段”である「育成ドラフト」で、今年は13人の高校生が6球団から指名された。
そもそもこの育成枠自体が、球団があまりお金をかけずに選手を確保するために作られた制度だから、入団の条件もほとんど支度金程度の100万、200万。ドラフト上位の選手たちが1億5千万から5~6000万円の契約金で入団することに比べると、ほとんど“タダ”みたいなものである。
もちろん、契約金の額は本人たちが納得していればそれはかまわない。しかし、実は本人たちがあまり気づいていないところで、気になることがある。
育成選手には3年間という「期限」があることだ。つまり、3年間の間に「支配下登録」を受けないとクビになる。一部の球団では、育成選手として再契約することで選手たちに4年目の猶予期間を与える場合もあるが、ほとんどの場合、3年間で支配下登録されなかった選手は事実上の戦力外通告を受けているのが現実だ。
つまり、有望な選手たちが21歳から22歳で、公式の硬式野球ができなくなる。