マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
華やかなドラフトの陰で流れる“涙”。
無指名、意中外、育成枠の男たち。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/11/08 10:50
日本シリーズ優勝に貢献したソフトバンクの攝津正も、ドラフトで涙を呑んだ選手の1人。ドラフトが選手の価値を決めてしまうわけではないのだ。
育成枠から3年で一軍が見える選手は20%以下。
以前何人かの育成選手たちと話していて、彼らがその制度を知ったのが入団してからだったことを聞き、とても驚いたことがある。
知っていた選手たちの中にも、3年あればなんとかなるだろうと考えていた選手が多かったことにも、少なからずビックリしたものだ。
高校を卒業して育成枠でプロ入りし、3年で一軍が見えてくる位置まで台頭できる選手は、ここ5年をみても20%に満たない。しかし、こうした事実を高校生選手たちに認識しろと言っても、それは無理な注文であろう。むしろ高校野球の現場の大人たちが、もっと選手たちに現実を知らせなくてはならない。
そうした事実を踏まえたうえで、確かな覚悟を持ってプロへ進むのであれば「育成」でもよいだろう。
ただし、人間はただで拾ってきたものを大切にはしない。企業においては、ますますその傾向は明確である。
“来年”は、もう始まっている。
社会人野球・日本選手権の京セラドームでは、JR東日本vs.JR九州の「JR対決」が始まっている。
前回、この項で書いた「ふたりのリョウタ」。日本製紙石巻・伊東亮大一塁手には地元・楽天から手が上がったが、JR東日本・石岡諒太一塁手の指名は見送られた。
3番ファースト、石岡諒太。
私が球場を訪れた日は、クリーンアップであった。
最初の打席、タテのスライダーを持ち味の渾身のフルスイングだ。
わずかにタイミングを外されて、打球は二塁手の左へゴロになった。
両腕を大きく振って、全力疾走だ。
大きなストライド。
走って、走って、最後は1m87cmを投げ出すようなヘッドスライディングで一塁ベースに飛び込んでいった。
打ち損じから内野安打をもぎとって、スックと立ち上がると小さくガッツポーズ。
一塁ベースが、めざす「プロ野球」に見えていたのではないか。
好漢・石岡諒太の“来年”は、もう始まっている。