スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
さようなら、最高の「8番」シャビ。
代表引退、バルサ残留という決断。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAP/AFLO
posted2014/08/13 10:40
失意の結果に終わったワールドカップ中、練習で盟友のカシージャスらと談笑するシャビ(右)。もうスペイン代表で彼のプレーを観ることはできない。
重要な試合で先発落ちし、一度は移籍を決意した。
しかしいかに偉大な選手であっても、いつかは終わりの時が来るものだ。そしてシャビのそれは望んでいたものとは全く異なるかたちで訪れた。
EURO2012の優勝後に代表から退く意思を示したものの、デルボスケからブラジルまで続けるよう説得され翻意。だが集大成として臨んだワールドカップの結果は周知の通りだ。しかもシャビ自身はオランダとの初戦にフル出場したのみで、残る2試合はベンチから戦況を眺めることしかできなかった。
「2012年のEUROの後に引退の意思を伝えたんだけど、監督からブラジルまで続けるよう説得されたんだ。結局ワールドカップはチームも個人も残念な結果に終わってしまった。特にチリ戦は先発から外されてしまったから」
長年ラ・ロハの司令塔として活躍してきたシャビにとって、勝利が必須のチリとの大一番で先発落ちしたショックはとてつもなく大きかった。その大きさはと言えば、代表に加えてバルサから去ることも決意させるほどだったのである。
「自分のバルサでの時代は終わったと考え、身近な人々やクラブ関係者にメッセージを送った。今は早まった決断だったと思っている。でも当時はチームに対しても、個人的にも落ち込んでいたんだ。アトレティコとのリーガ最終節をベンチで過ごしたときの落胆は本当に大きかった。それは代表のチリ戦でも繰り返された。シーズンを通して自分はチームの役に立つ存在だと思ってきたけど、2つの重要な試合ではそうではなかった。それで決断したんだ」
まずはカタール、次にMLSのニューヨークシティ。移籍情報が既成事実のように報じられるのと平行し、シャビはアトレティコとの最終節後に移籍を本気で検討しはじめ、ワールドカップ敗退と共にその意思を固めた。それは事実だった。
ルイス・エンリケの説得でバルサ残留に翻意。
しかし、その決断はW杯後にスペイン代表組がバルサに合流した段階で一転する。きっかけはルイス・エンリケ新監督との会話だったという。
「アンドニ(スビサレッタSD)とルイス・エンリケに説得されたんだ。自分は重要な存在になれると、彼らが思わせてくれた。特にルイス・エンリケは自分の考えを変えてくれた。彼の存在が鍵だったんだ。我慢強く待ってくれたクラブにも感謝しないといけないね」
ルイス・エンリケがどんな言葉でシャビを口説き落としたのかは分からない。1つ分かっているのは、元チームメートでもある新監督に、1月で35歳を迎えるベテランを特別扱いする気はないということだけだ。