ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
下痢と腹痛に悩まされながら、
自らの足でオレゴンへ辿り着く。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/10/17 06:00
長かったカリフォルニアを抜け、オレゴンに達した井手くん。
ちっともグッドではないのに……。
キャンプ場に帰ると、何人か顔見知りのバックパッカー達が居た。ドイツ出身のBeerとRanch夫妻の姿も見える。
なんでも、ドイツでは数年前にアパラチアントレイルのドキュメンタリーが放送されて以来、アメリカのロングトレイルが人気なのだとか。
彼らとは何度もトレイルで会っている。真面目な国民性と言われるドイツ人にもかかわらず、すでに幾つかのセクションをヒッチハイクでスキップしている。ペールエールビールの空き瓶が沢山芝生の上に転がっているのはご愛嬌だ。
“How's gone?”
“Good.”
僕はいつもの癖で答えてしまう。慌ててちっともグッドではないことを伝える。
「調子どう」が日常の挨拶ってのも、考えものだ。
「少し考えさせてくれないか」
Beerは今日はここで休み、明日の朝にオレゴン州の町Ashlandへ行くらしい。どうやら、またスキップするみたいだ。
なんでも、キャンプ場のオーナーがストアの仕入れの為に町へ向かうらしく、車を出してくれるというのだ。
自分の現状を伝えると、シャシンカも町で休んだらどうかという。
「少し考えさせてくれないか」
即答出来ず、僕は一度彼らの誘いを断る。
1600マイル、長かったカリフォルニアを、ここまで自分の足で歩いたのだ。初めての州境越えは、出来ることならトレイルを歩いて果たしたい。
まして、町で停滞するとなれば、キャンプ場とは違い、お金もかかるだろう。
皆の輪から外れ、キャンプサイトで思案していると、RVキャンパーの流すイーグルスのナンバーが聞こえてきた。
“Take it easy”
「気楽に行こうぜ」彼らは歌う。深刻な顔で思い悩んでいた僕に、次々とウエストコーストの懐かし気な音楽が聞こえてくる。
僕にとって最後の“ホテル・カリフォルニア”は、このキャンプ場なのだと思うと、なんだか寂しい。