ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

下痢と腹痛に悩まされながら、
自らの足でオレゴンへ辿り着く。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

PROFILE

photograph byYusuke Ide

posted2013/10/17 06:00

下痢と腹痛に悩まされながら、自らの足でオレゴンへ辿り着く。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

長かったカリフォルニアを抜け、オレゴンに達した井手くん。

腹の調子が悪く、用を足しながら歩く。

 その日は、下り基調のトレイルだった。

 8マイルほど歩き、後は延々と谷へ降りる。RVキャンプ場に併設された小さなストアで3日分の補給を済ませ、オレゴン行きに備えるはずだった。

 ところが、前日から腹の調子が悪い。

 何度も用を足しながら歩く(この旅で、すっかり野糞にも慣れたのは、内緒にしておこう)。

 ポイズンオークと呼ばれる毒草を避けながら谷への下り道を走るように降りて行く最中、僕は吐き気に襲われた。少し無理をし過ぎているのだろうか。

 キャンプ場まで降りるのを諦め、早めにキャンプすることを考える。

 しかしまあ、自分らしいと言えばそうなのだが、結局我慢して谷まで降りてしまった。

 そこからPCTは車道に合流する。6マイルほどを歩かなければならない。これもまた「トレイル」なのだ。もう前に進むしか、キャンプ可能な場所はない。

「紙がない~」と唄ったのは井上陽水だったか。いや、そりゃ傘だ。自らを奮い立たせ、キャンプ場へ。時計を見れば9時を回っている。他のキャンパーに迷惑をかけぬよう、用を足して寝袋にくるまる。

ふたたび腹の痛みで目覚め、トイレに駆け込む。

 腹部の痛みで目覚めた翌朝、再び「施設としての」トイレに駆け込む。

 アウトドア先進国のアメリカでは、RVキャンプという遊び方が富裕層の間で定着しているようだ。ストアやシャワー、トイレにカフェといった、施設の揃ったキャンプサイトを町や公園に多く見る。

 ストアが開くのを待ち、顔見知りのバックパッカーたちに誘われるがままに、朝食を摂る。

 食欲はなかったが、温かい食事が摂れる貴重な機会だと思い、パンケーキを注文。実はこの店「パンケーキチャレンジ」と呼ばれる、巨大なパンケーキの大食いチャレンジで有名な名所なのだ。

 キャラではないのは承知で、密かにチャレンジを企てていたのだが、状況が状況なだけに断念。通常サイズのパンケーキをなんとか食べ終える頃には、吐き気が戻ってきてしまった。

 どう考えても、このまま山に戻るのは賢明ではない。

【次ページ】 「それは彼女の運転次第さ」

BACK 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 NEXT

他競技の前後の記事

ページトップ