今の自分に必要なのは、休むことみたいだ。

　返事を先延ばしにしたまま、キャンプ場で2泊目の夜を迎える。

　翌朝、体調は芳しくなかった。ここにもう一度ヒッチハイクで戻ってくるのはきついかもしれない。

　しかし、今の自分に必要なのは、休むことみたいだ。1週間なら、元々立てていた行程からみても余裕がある。

　だいたい、元々貧弱な僕がここまで健康トラブルに巻き込まれなかったのが奇跡みたいなものだ。少し無理して動き過ぎたのかもしれない。

　まさに断腸の思いで（そう、腹が痛いのだ）、僕はオレゴン最初の町Ashlandへ向かうことに決めた。

　また絶対に、カリフォルニア側に戻ってくることを誓う。

　日本人は、真面目な国民性だと言われる。そんな日本人の僕は、やっぱり歩いてカリフォルニアを、突破したいのだ。

見るのが辛かった“Ｗelcome to Oregon”のサイン。

　ハイウェイは酷い煙に包まれている。なんでも、近年でも稀に見る深刻な山火事が起こったらしい。PCT沿いなのかどうか、不安がよぎる。

　ハザードランプを点けて前の車がスピードを落として行く。100m先も煙で見えない。

　一寸先は闇。まさにそんな空気みたいに、パッとしない感じで、1時間半のドライブを経て僕はオレゴンへ入った。

　フリーウェイに立てられた“Ｗelcome to Oregon”のサインを見るのが、辛かった。

　後部座席からはドイツ人夫妻のたてる寝息が聞こえてくる。呑気なものだ。

ドラクエの主人公のように、街の情報を仕入れる。

　初めの1泊をドイツ人夫妻と同じモーテルで過ごし、僕はダウンタウンへバスで向かう。行き先はアウトドアショップだ。

　ドラゴンクエストなんかの主人公が酒場で情報を仕入れるように、僕たちバックパッカーは、アウトドアショップで町の情報を手に入れるのだ。

　予想通り、この町にもトレイルエンジェルがいると言う。

　電話を借りて事情を話すと、Tomyという名の男は、すぐに家に来なさいと言う。

　アウトドアショップで再会したLotus 、Hermesの2人と共に彼の家へ向かうと、彼は何やら忙しない。

「これから2日ほど家を空けるから、好きに過ごしてくれ」
「鍵は閉めなくていい。シャワーを浴びたら換気扇を回すこと」

　それだけを言うと、彼はすぐに居なくなった。

　いきなり押しかけてきたバックパッカーを、自分が留守にしている家に泊めてしまうなんて。

「君たちはPCTを歩いているんだろう。それなら大丈夫さ。そうだろう」と、彼は笑って出て行った。

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